8、すくらっぷ・ブック

2008年2月21日 (木)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)

「あの人は今?」というような人探し番組があったりする。
行方不明の人を探し出したり、元芸能人の現況を露にしたりする番組だが、毎度なんとなくおもしろ半分に見させてもらっている。
疑ったらいけないんだけど「やらせ?」かな?と思うような回もあったりするので、まあ「半信半疑」なんだけどねhappy01
でも「現実には存在しない人物」について、行方を巡らせて楽しむ限りは「やらせ」でも何でもないんだから、まぁ「おもしろ半分」でも良いんじゃないかと思って「こんなこと」をしてみる事にした。
題して「その後の芦の原3-7…あの人は今!」なんつてねcoldsweats01

で、想像だけじゃ不確かだから(?)「姓名判断」を頼りにしてみた。
使ったのは「幸福の姓名判断」というページ。
これで「運命」を占い、なおかつ彼等の学生時代の出来事を鑑みながら「想像」をして遊んでみたい!。
では一発目…は、もちろんこの人good

「柏木 晴」…晴ボン、ですね。
あれからもう幾年過ぎて、彼ももう40代のオッサン突入ですが。
小山田作品の中では暗に「芸術家」になっている、と示唆されているとのことなのですが、私は作品を見てないので、一応の「目印」として判断します。

…おお「人格」は大吉です!。さすがですね。
親分肌で義理人情に厚い人物で、信頼は高そうです。
一方「強情で独善的な面も持つ」そうなので、ここは注意ですか。
うーん、なんとなく納得。
強情、と言うファクターが無いと「苦悩の旅」に出かけたりはしないものね。

「家系運」は女系…か。これも激しく納得だな。
愛情面、社交面に関しては、イメージが違うね。

「性格」に関しては、すごく当たっているような。
「プライドが高く、実力があって、努力家です。めんどうみもよいので、必ず人の上に立って、たよりがいのある人として慕われるでしょう。ただ、人によっては、生意気に見られる場合もありますから、謙虚さを失わないようにすれば、さらに強運な人生となります。」…以上、結果から抜粋。
…うーん、まさしく「晴ボン」そのままだな。

さて、こんなところから想像していくと「絵描き」として大成していくには「人の和」を第一義とする生き方が必要みたい。
実力も才能もあるので、要は「野心」をどれくらい押さえられるか?と言うところ。
展覧会への執着(これもまた野心か?)もすごかったし、身体のサイズと比例しない「ドロドロしたもの」は意外と持っている奴なのかもしれない。
突っ走っては転び、誰かに起こされて、そしてまた、という感じの「波瀾ぶくみの人生」になっているかもしれない。
「芸術は爆発だ!」の言葉もあるし、一点集中する芸術家は向いている職業なのかもね。

「奥さん」に関しては「暴走を未然に防ぐ」女性で、なおかつ少しくらいの事にはへこたれない力強さが必要となるだろう。
そういった意味において香苗ちゃんであれ、マッキーであれ「適任」とは言える(暴走を早く防ぐか、起きても受け入れるかの違い)のだが、個人的には雅一郎の「悲恋」を結ばせてあげたいので、マッキーが適任でヨシ!ということにしておこうかな。
本当は「足して2で割る」くらいがちょうど良いと思うけどね。

芸術家は「運」が良くないと大成できないと思う。
芸術の仕事は、一般的な仕事と違い「アフター」がほとんど効かないという特質を持っている。
一度の失敗は、継続した評価に繋がりやすいからだ。
だから「失敗のリカバー」は大変に難しく、何らかの「運命のいたずら」ともいえる出来事が多発しない事には成り立たないのだ。
情熱、野心、運命、そして人との繋がり。
こういったものが人生のあちこちで「働いて」いないと、大きな夢の塊である「芸術家」は生きてはいけないものだ。
「柏木 晴」は、こういった一連のモノを内包している「選ばれた存在」と言っても良いだろう。


…うーん「名は体を表す」って、本当っぽいね。
私は自分の名前はぶっちゃ毛「キライ」だけどねrain

次回は「カナちゃん」でいこうかな?。
まさいちろうの姓名判断と比較しながら、想像、想像!。



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2008年2月22日 (金)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎

前回に続き、今回は「カナちゃん」こと「日生香苗」さんですね。
今回も「幸福の姓名判断」さんを利用させていただきます。

…では、と名前の入力をしてみます、というと…
…うひゃぁ、こりゃすごいわ、ヒドイわ、という感じで出ちゃいました。

「天格・人格・地格・総格・外格」という項目があって、それに吉凶が書かれているんだけど、なんと「吉がひとつも無い!」
…なんちゅー可哀想な娘っ子だべさcrying!。
こげなことがあっても良かろうか?と小山田様には具申したくなる。

総合運をみると…
「信念を持ってまじめに努力するタイプと、気が短く偏屈屋になりやすいタイプがいます。両者共に、吉と凶が背中合わせのような状態で、自分の意志に反して、そのような環境下におかれてしまいがちです。ひとつひとつ忍耐して乗り越えて行けば、徐々に運勢は好転するでしょう。」以上、結果より抜粋。
とあるので、真面目なカナちゃんとしては「その通り」だと思えますよね。
うんうん、なるほど。

「仕事運」は順調、しかし「社交運」に関しては「引っ込み思案」と、これまたビンゴな結果が出ている。
「性格」としても
「外に良くて、内に対してあまり良くないタイプです。人に対して、その場で自分の意見を言わないで、後で不満を家族にぶつけたりする傾向があります。また、気持ちの浮き沈みが激しいので、何かにつけて不安定な生活になりやすいでしょう。」以上、結果から抜粋。
…とある。
「クマ坂口」を「兄」と思えば「家族」と言っても良いのかな?。


以上のように「薄幸を絵に描いたような」運勢を持って生まれてきた(?)彼女。
これはもう「運命を変える存在」と出会う事が、彼女にとっては必須なこととしか考えられない。

そして彼女が最初選んだのが「晴ボン」。
「情熱と幸運の塊」みたいな彼を選んだのは、彼女の洞察力の賜だったのか。
彼女の「想い」は、本当の本物で、心からの「希求」だったのだな。

しかしなんの悪戯なのか、彼には彼女が「唐突に」出来てしまった。
元はといえば「勘違い」からなのだから、そういう意味では釈然としないし、晴ボンがマッキーに向けた気持ちはいわば「責任感」とか「罪悪感」が始まりなのだから、当然本当の意味での「好意」というものからは少し距離があるものだ。

それに対して、カナちゃんが彼に向ける気持ちは「求め」なのであり、その意思は比べようも無く強いものだ。
だから、彼が彼女達に感じる「引力」というものも、その強さという点においてはカナちゃんのほうが数倍勝るだろう。
おまけに「好み」という点においても、彼の「それ」と一致するものが多く、マッキーの存在や運命の「いたずら」が無ければ、二人は結ばれ合っていたに違いないと思える。
それくらいに作中での「運命の神様」は激しく悪戯者なのである。

…少し長くなったので、雅一郎との絡みは次回へcatface
次は彼の運勢と「未来像」を想像、想像!。



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2008年2月23日 (土)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎2

…というわけで「幸運の姓名判断」さんを利用させていただき「小宮山雅一郎」さんの運勢をチェック。

…いや、これがまた凄いshine!。
格付け中「大吉が4、吉が1」という、破格の強運人生だ!。
「細かい部分」の運勢も良く当たっていると思う。
…やはり、ひとかどじゃない人物だなぁ雅一郎!!。
人は(あ、キャラだけど)身長で計ったりしてはいけないのねhappy02


さて、カナちゃんとの「縁」なんだけど、
「短気な面と情にもろい面が同居しているため、感情に走って冷静な判断がしにくくなりやすいでしょう。とかく家の中には、波風が立ちやすい傾向にあります。」以上結果から抜粋。
…と、こうなので、彼女の運勢と合わせて見ても「円満」に行くとはどうにも考えられない。
やはりこの恋は雅一郎にとっては「悲恋」だ。

…えー、私が「勝手に」考えた「その後のあらすじ」は、こんなところなんですよ。
「そんなのダメ-annoy」とか言われても、当方は責任持ちませんよ!。


…同じ高校に進んだカナと雅一郎は、その後も浮き沈みはあるが、良好な関係を築いてきた。
カナは相変わらず絵の制作に忙しく、また卒業を控え部長としての役目もあり、毎日を忙しく過ごしていた。
雅一郎は特に特定の活動はしなかったが「おふざけ」にもいささか飽きたのか「芦の原連合」なる「お助け集団」を結成し、その非凡なる才能をいかんなく発揮していた。
二人は校内でも知られたカップルであり、また有名人でもあった。

絵を制作、出品するという関係から、彼女が「晴ボン」と展示会場などで出会うことは珍しい事ではなかった。
ハルの傍らにはいつもマッキーの姿があり、二人のドタバタぶりに「相変わらずね」と、懐かしむ彼女ではあったが、心の奥底でいつも疼くような感情を抱えていたのも事実だった。
そんな気分も雅一郎との時間の中で大概は霧散してしまうのだが、都合が悪くて彼に会えないときや、何かをきっかけとした「小さないさかい」があったときなど、彼女の中には晴の姿が浮かんできてしまうのだった。

二人は「仲の良いカップル」であったのは事実だ。
しかし、その中身があまり「進展」していかないことの「大きな理由」として、彼女の「終わらない恋」の存在があった。
二人は互いに、小さく傷つきながら青春の時間を過ごしていたのである。


…ふう、えらく引っ張ってしまった!。
未だ終わらないようなので、また次回も続きます!。




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2008年2月24日 (日)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎3

<続き>

…3年が過ぎ、二人の進路は離れていった。
カナちゃんは都内のデザイン学校に進学し、雅一郎は県内屈指の医学系大学の歯学部を選んだ。

2年生が終わる頃、二人の間に小さな「いさかい」が起きた。
普段ならば長く引きずる事の無い手合いのものだったにも関わらず、進学の事や、部の引継ぎのことなどの雑事が連続して発生し、いさかいの「原因」の言及も無いままに、そのことはうやむやになった。
雅一郎は
「まぁ、普段良くあること」と、重視しなかったが、カナにとってそれは小さいけれど「痛い」塊のような出来事として残った。

忙しく流れる時間のなかで、徐々に二人の関係は冷たくなっていった。
決定的だったのがカナの「都内校への進学」であり、それを彼は許せなかった。
カナにとって「芸術に触れるのには東京が一番良い」という、現実的なチョイスでしか無かったのだが、進学校の選択に幅が無かった(父親の既知がいるのが県内校だった)関係で、自由が無かった彼にとって、それは大きな痛手だった。
…「別れ」に対して前向きな選択を中学時代に経験してきた彼等である。
本来ならば、その溝を埋めるべく努力し、解決法を見出す事が可能だったはずだが、その「きっかけ」を彼等は逃した。

「何気ない一言」だった。
「…そうだよな、東京には「アイツ」も行くんだしな!」
雅一郎は吐き捨てるように彼女に言った。
そのとき、カナの心の中に有った「塊」が、鋭い破片(かけら)のに変わって、彼女の心に刺さった。
「…どうして?」震える声で彼女は言う。
「…じゃぁ、今までの私達って」その後は続かない。
彼女の目からは大粒の涙があふれては落ちていた。
彼は「ゴメン…」と一言言うのが精一杯だった。

彼等は自分たちの「恋」の脆さに、今更のように気付いたのだった。
「お互いの中の傷を治し合う関係」は、互いを求め、高めあうには脆すぎた関係だったのである。
ひび割れを繕った器が、元のようには使えない様に。

…その日を境に、二人は会わなくなっていった。
忙しさを理由として、向かい合う事を避け始めたのである。
そして、背中を向けたままの「卒業」。
…彼等は独自の道を模索し始めたのである。

…2年の月日が流れた。
カナは東京での暮らしに慣れはしたが、お世辞にも「快適」と言う事は無かった。
住居は叔父さんの家を「間借り」して住んでいたが、都会の忙しない時間の流れが彼女を苦しめた。
そんなときに思い出すのが故郷の事であり、山から吹き降ろす風の冷たさと、爽やかさだった。
それは、芦の原中時代の数々の思い出と、時に重なりあったりもしていた。

「帰ろうかな?」と、彼女は呟いた。
学校の授業は楽しかったし、クラスの仲間は気の置けない存在。
わいわいと騒いだり、飲んだりするたびに、脳裏に浮かぶのは何故か中学の事ばかり。
ひとときの思いに耽り、ふと我に返ると話題はもう変わっていた。

「帰ろうかな?」再び彼女は呟く。
快速の赤いドアが、バタン、と閉まり、薄暗い駅の階段を降りながら彼女は思う。
「…でも、帰ってどうだというのかしら、ね?」
皆、それぞれの道を歩き始めている。
「宙ぶらりん」のまま、故郷に帰っても、自分の身を置く場所なんて無い。
…受け止めてくれる人も、いない。

「逢いたい」
そんな想いに唐突に彼女は囚われた。
そしてそのときに浮かんだ映像は、高校時代の雅一郎の姿ではなく、中学時代の「晴」の姿そのものだったのである。
思いがけず噛んでしまった唇に気付き、彼女はハッと息を呑み、そして思わず自分の肩を強く抱きしめていた。

小刻みに震える身体を見て、酔っ払いが声をかける。
彼女はそれをキッと睨めつけ、背中を向ける。
早足で歩く彼女の鼓動は高まり、紅潮した頬には幾筋もの涙が流れつたっていった。
「…帰りたい…帰りたい」
「逢いたい!!」
「逢いたいよ!…晴ボン!!」
彼女の声は、国道のノイズの中に消えていった。

<続く>




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2008年2月25日 (月)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎4

<続き>

…大理石の白い床が、まっすぐに延びている。
それと平行しながら、色とりどりのカンバスが並んでいる。
この「光あふれる空間」が、彼女はどんな場所に行くよりも好きだった。

暇があれば訪れるこの美術館だが、今日は特別の「目的」があった。
それは彼女の偉大なる先輩…そして彼女にとって特別な存在でもある「彼」「展覧会初入選作」が展示されることになっているからである。

彼女はまるで恋人との待ち合わせを楽しんでいるかのように、自分の目の前に作品が現れる事を期待しつつ歩いた。
…虹色に光り輝くような絵が、彼女の前に現れたとき、彼女は直感した。
「彼の絵だ」と。


「光のスペクトル」全てを内包しているかのように、カンバスが輝いている。
主体は風景画のようではあるが、そのエッジは朦朧として、形を明確に認めることは出来ない。
光が自ずと画面上で乱舞しながら、その「軌跡」を永遠に残していくかのようである。
…彼女は立ち止まったまま動く事が出来なかった。

彼の作品に感銘を受けた事は勿論だ。
また、彼との「実力差」を目の前にして「畏怖」を感じてしまったこともある。
しかし「そればかりでない」何かを、彼女は同時に感じていた。
そしてそのことこそが、彼女を金縛りにでもあったかのように佇ませ続ける原因でもあった。
…小さな「影」が、彼女の後ろに存在しているのも気付かないほどに…。


「…誰かが喋っている」
…いや、喋っているのじゃない「呼んでいる」のだ、と彼女は気付いた。
まるで少年(こども)のように幼く響く「声」の主は、彼女の背後に居た。
彼女は弾かれたかのように振り向き、声の主を探す。
…彼女の見つめる先には、午後の光を背に受けて佇む「小さな影」があった。

「どお?」そして「久しぶり」
…懐かしい声。
…捜し求めていた「声」。
それが今、彼女の目の前にあった。

呼びかけたいのに声が出ない。
自分の中から溢れ出てくるものが喉を詰まらせるかのように、彼女の声を凍らせていた。
変わりに「熱いもの」が両方の目から流れ、白い床に点々と落ちる。
彼女は崩れ落ちるかのように「小さい影」にすがりついた。
「影」はただ黙ったままで、彼女の成すがままを許した。


…時間は時計の針が進んでいくごとに消化されていくものじゃないだろう。
過去の時間と現在の時間が邂逅し、溶け合いながら過ぎていくのを、彼女は自覚した。
「…立てる?」「…うん」
カナは彼の「小さな肩」を頼りに、ふらり、と立ちあがった。
彼の肩が心なしか頑丈になっている事に気付くと、彼女の頬は紅く染まった。

「…この絵」
彼の言葉に自分を取り戻すように、彼女は慌てて自分の前髪を撫で上げる。
「この絵は…僕にとって大事な絵になったよ」

そうね、と彼女は相槌を打った。
…今回の「画展」は、日本でも有数の権威あるものだ。
それに入選したのだから、それも当然の事と彼女も思っていた。

「おめでとう、晴ボン!」
カナは、自分で出来るだけの笑顔で、彼に祝福を送った。
しかしその言葉に、彼の顔は思いの外に輝く事は無かった。

「おめでとう、は嬉しいけどね」
と、彼は思い含めたような表情(かお)で言う。
そして、自分の作品に向かい合いながら、こう言った。

「これはビフロスト…虹の橋なんだよ」
晴がそう言った刹那、彼女の意識は緩やかに、遠く過去の出来事へと飛んでいく。
…未だ春浅い山麓の風に、彼女は吹かれていた。

<続く>



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2008年2月26日 (火)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎5

<続き>

…小高い丘の上の公園からは、たなびく山の煙がはっきりと見えた。
その公園の中で「ふたり」が、何か話し合っている。
…不思議なのは、幼さを残す顔立ちを二人がしている事。
何よりもそこには「今の」私が存在していない。
…これは「過去のビジョン」なのだろう。

彼は、木の階段を笑いながら、話しながら、とっとと登っていく。
足元に出来た「小さな虹」の上を、スキップしながら歩くかのように彼の足取りは軽く、羽でも付いているかのようだ。

「…ほら、僕は橋を渡っているよ」
「…君は、どうなの?」
…君は、どうなの?という台詞の部分だけが、何度も何度もリフレインする。
二日酔いのときのような悪寒を感じ、背筋が一瞬ぶるっ、と震える。
…彼女の意識は現実へと呼び戻された。

「…渡れなかったのよ」
「渡れると思ってた…信じてた…」
「…あなたを信じていた…それに「彼」のことも」

「彼は一生懸命だったのよ!?…尽くしてくれたし、慰めたり、励ましてもくれたわ!」
「どうして?…何が悪いの?…「運」が無かった、ってことなの?」

「それとも…あなたが悪いの?」
…最後の言葉を、カナは必死で飲み込んでいた。
…それだけは言えなかった。
自らが愛し、諦め、心の奥底にしまいこんで過ごしてきた存在。
大切な「宝物」のような存在。
その存在を、自分の手で葬る事だけは、絶対に出来なかった。
…彼女は、スウ、と大きく息を吸いこみ、一度、ふう、と小さな溜息を吐いた。

「…ゴメンね、変な事言っちゃって」
そう彼女が言おうとした刹那、彼女の耳に晴の声が届いた。

「だからだよ…だから描こうと思ったんだよ」
…晴の意外な一言に、彼女は再び戦慄した。

「少し時間、いいかな?」
そう言うと、彼は返事も待たずに踵を返し、歩き出した。
カナは、微かな眩暈を感じつつも、彼の後を追いかける。

…二人は美術館の中庭へ出た。
風は無く、暖かな芝生の上に、よいしょ、と彼は座り、そしてパタン、と寝転がった。
カナは片膝をくずし、彼の隣に座る。
晴天の麗かな午後だったが、カナの心は鉛が入ったかのように重かった。

<続く>




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2008年2月27日 (水)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎6

<続き>

「…カナちゃんは知ってると思うけど、僕の名前、暫く出てこなかったでしょ?」
名前、と言うのは画展の「入選者名簿」のことだというのはわかった。
確かにここ一年間の間、彼の名前は主だった画展からは見つける事が出来なかった。

「…スランプ、っていうと聞こえが良いけどさ…何と言うか「描きたく無くなっちゃった」んだよね」
「絵が下手になったわけじゃない…技術はむしろ向上してきたんだけど」
「自分の「中身」がすっからかんで…イヤになっちゃった」
…さっきの言葉の「ショック」は有ったが、彼女の中に「違う方向での」興味が湧き出してきた。
彼女は言った。

「ひょっとして…マッキーとうまく行ってなかったの?」
…彼女は、彼も自分と同じく「悲劇」を経験してきたのかも?と考えた。
それは女性らしい思考ではあったが、晴の目が「点」になったところを見ると、的は外れていたのだろう。
…いや、それは違うけど、と笑いながら晴は答えた。

「描ける「環境」が素晴らしくて…楽しかったし、順調に賞も取れて…ステップアップしてきたな、と実感したんだ」
「調子に乗って描いてたら…いつのまにかガス欠…エンプティーだったわけ」
「…心に「貯めこまないで」吐き出す事に夢中になってた」
「でも、焦ってて…コースから落ちちゃうぞ!なんて…僕らしくも無く、ね」

「…それで?」「そう!」
「僕は「描かない」ことにしたんだ」
彼が「ニッコリ」とわらう。
それはあの「懐かしい」昔の笑顔そのものだった。
それに釣られて、カナも微笑んでいた。


「…僕は、実は学校を休んで「帰って」いたんだよ」
それはカナにとっても初耳だった。
「え…じゃ、彼女は?」「彼女は…」
一瞬の静寂が有った…そして
「マッキーは…ついて来ちゃった!」
…あはは、やっぱりそういうことなのね、と思う。
「…変わらないな…昔からこの二人は少しも変わらない」
甘酸っぱい痛みが、また彼女の心を刺した。

「…で、小諸の風景をひたすらスケッチする毎日を送ってたんだけど」
「それでも、何か違う、変だ、って思ってばかりで…解決策が見えなかったんだ」
「で、そんなこんなが続いて…もう止めた!って、スケッチブック持たないで歩き出したんだよ」
…そしたらね、というと、彼はやにわに起きあがり、彼女のほうを向いて言った。

「そうしたら…路地を曲がると「ああ、あのときの」とか…イチノや、クマや、理美ちゃんたちと話したあれこれの事が「どんどんと」湧いて出てくるんだよね!」
「それがなんだか楽しくてさ…気の向くままに歩いて回ったんだ」
「そして…最後に辿り着いたのが…カナちゃん、「あの公園」だったんだよ!」

…カナは思わず両手で自分の口を塞いでいた。
それは長い間、彼女が求めていた「答え」が訪れるという「確かな予感」だったのだ。
彼女は自らの激しい心音の聞こえる中、晴の言葉を待っていた。

<続く>



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2008年2月28日 (木)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎7

<続き>

「…僕は…あの公園の中で、昔カナちゃんと話していた事を思い返していた」
「そして…「あの階段」を上って…そこから後ろを振り返ってみたら…昔とあまり変わらない風景があって」
…晴の口が一瞬止まり、彼は言葉をつむぎ出すかのように言った。

「変わって無い…何も、変わって無い…同じように僕は不器用で…」
「この「小さいからだ」に負けないように…走りまわってきた」
「自分が良かれ、と思ってやったことで、傷をつけてしまったときもあるけど」
…でも、と彼は彼女を見ながら言葉を続ける。
その目は昔以上の「意思」と、確信さを併せ持つ光を宿していた。
カナは吸い込まれるかのように、彼の言葉を待った。

「考えてみたら…それは違うんだよね」
「違うんだよ…僕が「やってきた」んじゃないんだ」

「…僕は「やらせてもらっていた」んだよ!」

…カナは大きく目を見開いて、晴の顔を見つめていた。
その「顔」は「人生の後悔」を嘆く男の顔などではなかった。
何かを理解し、苦難を超えてきた、誇らしそうな男の顔が、彼女の目の前にはあった。

「…僕はすごく「大きなもの」を、貰いながら生きて来られたんだ」

そう言うと彼はその「小さな右手」をカナに差し出しながら言った。
「…だから「描きたかった」…あのときの「みんなのこと」そして「君のこと」も」
「…ありがとう…良い絵を描かせてもらったよ」

彼の手は小さかったけど、暖かい。
カナは、残る手で涙を拭いながら、自分の心の中に留まっていた「思い」が、雪解けの雫のように、溶けながら零れ落ちていくのを感じていた。

「…何もかも…そう「誰も悪くなんか無い」んだ」
…解決しない問題なんか、無い。
わからないことがあっても「忘れなければ」時間は、ちゃんとチャンスをくれるんだ。

「…私も…一度帰ってみようかな?」
カナがそう言うと、晴はにっこりと笑って頷いた。
「…そうよ「人生のカンバス」は何枚もあるんですもの!」
彼女は、そう自分に言い聞かせながら、再び晴に微笑みかけた。

* * * * * * * * * * * * * * * 

…それから再び、大きく時間は流れる。
晴と香苗の再会から、十年の月日が流れ去っていった。

秋の空が澄み渡る、高原の街の学び舎には「特設ステージ」が組まれていた。
校庭に三々五々と集まる、人々の数は二百人を越えようか、というところ。
タキシードで固めている男の姿もあれば、ステージの最後の仕上げをしようというのか、ジーンズ姿の女性も忙しく走りまわっている。

「エッ、エ~!テス、テス!」
スタンドマイクのテストの音声は、派手なハウリングを起こして、客は思わず耳を押さえた。
同時に野次が飛ぶ。
どうやら、もう始まる前から酔っ払っている客もいるようだ。

…何やら楽しい催しが開かれるようだが…?。

<続く>



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2008年2月29日 (金)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎8

<続き>

…午後1時。
学校に始業のチャイムが鳴る。
…とはいっても、今日は日曜日。校内に生徒の姿は見えない。
…かわりに校庭のステージに登ったのは、ラメをちりばめた衣装を着た、コメディアンのような風体の男だった。
彼はワイヤレスマイクを掴むと、咳払いをひとつし、

「え~、れでぃす あんど じぇんとるまん えーんど おとっつあん、おっかさん!!」
…と、何処かで聞いたようなギャグをぶちあげる。
会場の失笑をものともせず、彼はハイテンションのまま喋り続ける。
どうやら彼は、ここの司会担当役らしい。
黒ブチの大きな眼鏡が、陽光にキラリ、と光った。
…彼の名前は「戸沢正賢」。
この「芦の原中学校」卒業生であった。

「…えー、そういったわけで…まぁ私の苦労話はさておき、今回の「主役たち」に登場願いましょう!!」

…スモ-クがたかれ、ステージを覆い隠した。
その「あまりの勢い」に、ケホケホと咳き込む来賓達の姿もあり、
「誰だぁー!これ作ったのは!!」と怒号の声も聞こえてくる。
…煙は都合、三分間ほど残っていたが、その煙が晴れてくるに従い、ステージの様子が見え始めてきた。
最初に人々の目に映ったのは、それまでは真っ白だったステージの壁に描かれている「天使たちの絵」だった!。
雲上から地上に光が降り注ぎ、柔和な表情でエンジェルが微笑んでいる。
…そして次に人々が目にしたのは
「雪のように白い衣裳を着た花嫁の姿」だった。

彼女は、黙ったままにうつむく。
その紅い唇は何か言いたげに、小刻みに震えている。
同じように長い睫毛も小さく震え、その眼から今にも涙の粒が降りてくるかのようだ。

会場には「静寂」があった。
その美しさに見とれている者、カメラを取り出してはシャッターを切る者…
あふれる涙を拭いもせず、ただ泣いている者…静寂の中、微かな音だけが響いている。
時間は止まり、空間が凍っていた。

しかし、霧が晴れ、概要が明らかになるにつれ、そのムードはたちまちに崩れていった。

スモークは徐々に「下がりながら」消えていく。
花嫁の「足元」「黒い塊」が見えてきたとき、会場の静寂は「笑い」へと姿を急展開させていく!。
…ブロッコリーのような、黒々とした髪の毛を持つ「それ」は、これまた真っ黒の「紋服」を纏っていて、その姿はまるで「七五三」のようだった。
クスクスと始まった笑いは増幅し、やがて「爆笑」へと変わった。
…ステージの端では、まさたかが腹を抱えて笑い転げている。

…いうまでも無かろう。
この「新郎・新婦」「小宮山雅一郎・香苗」夫妻である。

…会場のざわめきが止まらない。
雅一郎は少し大股(といっても、そんな幅じゃないが…)で、会場で笑い死に寸前でいる、まさたかの手からマイクを奪い取ると、大声で叫んだ。

「黙れーっ!!俺のカナちゃんの大事な式なんじゃぞ!!」
…会場は一瞬にして静かになった。

「まったくもう…俺を笑うのはいくらでもいいけん、彼女も一緒に笑うやつは居らんじゃろう、普通!」
最後まで残っていたくすくす笑いも消え、会場に静寂が戻った。
「ま、でも…正直嬉しいし…こんな場所を用意してくれて感謝しとる」
「堅苦しいのはワシも嫌いだし…飲めや歌えや勝手にしてくれや!」
そういうと彼は、マイクを司会に戻した。

「…えー会場も盛り上がりまして…ここでお二人の「馴れ初め」を私から紹介させていただきます
コホン、と咳払いの後、馴れ初めが語られ始める。

では、その「内容」を詳しく紹介していこう。

<続く>



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2008年3月 1日 (土)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎9

<続き>

…晴との出会いは、香苗の中にあった「もやもや」を完全に払拭していった。
彼女は学校での授業や、仲間内での遊びや活動に積極的に参加できるようになった。
ただひとつだけ「心残り」だったのが、雅一郎との「縁」だったが、彼に対しての「罪悪感」や「時間の経過」といったものだけはどうしようもなく、日々の時間の忙しさもあって、結果連絡をすることは出来なかった。

卒業制作が縁で親しくなった男性と交際を続けるうち、日々その仲は親密となっていき、やがて卒業、就職という過程を経ながらの「ゴールイン」を果たした。
23歳の春の日のことである。

カナは結婚後も仕事を辞めることは無かった。
夫となった男性も、仕事は同業だったが職場は別々だったので「すれ違い」の日が多かったようだ。
それでも仕事が好きだったのと、時間は「愛情」が埋めてくれるものと彼女は純粋に信じた。

やがて「妊娠」そして「出産」。
彼女は可愛らしい女の子を授かる。
…しかし「運命のいたずら」が足音も無く近づいているのを、彼女は知らないでいた。

夫は会社での待遇の悪さと、自分の才能を認めない上司との衝突を激化させていた。
彼は自分で「デザイン事務所」を立ち上げ、独立するというプランを彼女に話した。
当然、彼女にも「スタッフ」として参加してほしい、と要望する。
カナは「自分の会社での仕事」のこともあるし、と躊躇したが、彼の強い意志を見て、付き従う道を選択する。
…結婚5年目のことであった。


才能はあり、有能なデザイナーでもあった彼だが、こと「対人関係」に関してはずぼら、というか「いい加減」であり、報酬を後回しにしての仕事や、予算を度外視しての見積もりを出すなどした。
結果「仕事は出来るが、組し易い」という評が業界に流れ、一見華やかに見えた事務所ではあったが、その実情は絶えず「火の車」であり、自転車操業とでもいえるようなものだった。
カナは、資金のやりくりに躍起になり、自分の仕事はおろか、育児にも手を回せないという事態に困惑していた。

そして、ついに「決定的な」破綻が起きる。
彼が関わった仕事のひとつが「未払い」の憂き目にあったのである。
「ドミノ倒し」のように会社が破産していく事態に巻き込まれたのだ。

大きなプロジェクトであり、その被害は大きかった。
しかし、それよりも問題だったのは「受注先からのメッセージが全く無かった」ことで、いわば「ただ働き」をさせられたということだった。
彼のプライドは大きく傷つき、同業者の目も「それみたことか!」とでもいいたげに冷たかった。
受注の激減と、本人のプライドの崩壊に、会社はいよいよ「急降下」の非常事態を迎える。
カナも出来る限りの人脈を尽くし、仕事の受注に日々回るが、それも「焼け石に水」だった。


…この事件がきっかけとなり、夫妻は離婚を選択する。
3つになる子供はカナが引き取り、彼女は故郷へと帰っていった。
…故郷で出迎えてくれた家族や、友人たちの心遣いは嬉しかったが、彼女は再び以前のような「疑問」を新しく胸に抱くようになる。

「…私って、どうしてかな?」
「どうしてみんな「中途半端」に壊れてしまうんだろ?」
…自分のせいでは無い、運が悪かっただけよ、と人々は言うけれど、流石に今回は辛さばかりが残った。

「…ねぇ、どこか違う場所に行って、日奈と二人で暮らそうか?」
と、カナは娘に向かって言う。
「…おばあちゃんと、会える?…一緒にお散歩できる?」
と無邪気に言う娘の一言に、カナは離郷を諦めた。
…日生香苗、29歳のことである。

<続く>




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2008年3月 2日 (日)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎10

<続き>

カナは小諸で小さな事務所を開業した。
オフィスなどと言える様な物ではなく、自宅の部屋を改造しただけの場所である。

仕事の受注に関しても、この地方都市ではたかが知れているが、地元の建築会社との共同作業を行いながら、小さな店舗や注文住宅などのデザインに関わった。

…翌年の夏のことである。
長野市の中小ゼネコンで辣腕を振るっている「坂口光明」が帰郷していた。
カナと坂口は「親戚関係」であるから、当然盆の酒席などで同席することになる。

「…カナ、あのなぁ、仕事の話があるんだが」
と坂口は言う。
嬉しいわ、ありがとう、とカナは答える。
「クライアントは小諸。地元の医者なんだが」
「治療室」のデザインに関しては専門外だし、経験が無い…悪いけど他にまわして、とカナが言うと、坂口は、ふん!、と、鼻からひとつ息を吐きながら
「…いやぁ、あちらさんの「たっての願い」なんでさ…断れないんだよな」
「…あちら、って…私の知ってる人?」
「…んー、まぁ、会ってみりゃわかるよ!」
と、坂口は言ったきり
「じゃ、明日の3時に迎えに来るわ!」
話を切り上げてしまった。

「…ひょっとしたら」
「彼」のことなんじゃないか?。
もしそうだとしたら、この仕事請けるべきなのだろうか?。
いや、そもそも私にそんな資格があるのかどうか…。

「…なぁ、カナ?」
坂口は酒瓶をドスン、と畳に置きながら言った。
「いろんなことがあっただろ?…俺も少しは知っているけど、でも、人間一番大事にしないといけないのは「現在(いま)」なんじゃないの…いつだってさ」
「だから前向いて…楽しまないと損だぞ…」
…俺は晴のようにうまくは言えないけどな、と坂口は笑った。
「楽しむ?」
「そうさ…時間が経ったんだ…俺たちはもう中坊なんかじゃなくて、一角の仕事を任される「大人」なんだ」
「大人にゃ、大人なりの「楽しみ方」ってやつがあるだろ?」

…行けよ!と、そう言って坂口は笑った。


…翌日、坂口の車に同乗し、カナは郊外の高台へと向かう。
小諸の街が見通せる場所には、大きくは無いが清楚な感じのする医院が建っていた。
外壁につけられたプレートには「こみやまクリニック」とある。
…あぁ、やっぱりそうだ、とカナは納得する。
緊張しているのか、寒いだけなのか、背筋が、ぶるり、と震える。
感情が夏の雲のように、どんどんと湧き上がってきて、カナは思わず自分の胸を押さえた。

「…カナちゃん、か?」

…足元から聞こえる、この声…この感じ…。
昔懐かしい記憶が今、自分のすぐそばで現実になっている。
恐る恐る、彼女は振り返ってみる。
…振り返りながら屈みこんで、下を見る仕草を忘れてはいない自分がいる。

…そしてそこに、小さな人影を認めたとき、彼女の中に過去の出来事が津波のように押し寄せて来る。
がくがくと定まらない膝が、突如折れ曲がったかのように彼女は蹲り、両手で顔を塞いだ。

…涙が出ているわけではない。
ただただ「恥ずかしい」のである。
体は硬直しながら震え、顔は紅潮し、息が荒くなる。
…どうにしようもない「羞恥の感情」に彼女はとらわれてしまっていたのだ。

<続く>



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2008年3月 3日 (月)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎11

<続き>

自分で自分の状態が、おかしいくらいに狼狽しているとわかる。
…恥ずかしい。
年齢(とし)をとってしまった…もう少しも若くなんか無い…無邪気でも無くなってしまったろう…
…変わりに世間の「垢」ばかり詰め込まれてしまったような「自分」が居る。
「彼」と対等に話していた「過去の自分」はもう居ない…。

…過去と今が一気に接続されたような気がした。
混乱の中、彼女はしばらく蹲っていた。
そして後悔の気持ちが、彼女の目に涙を呼び込もうとしていた。

「…泣かないで…くれんかのう?」
「泣かれると…ワシも一緒に泣かないといけなくなるからの?」
…「声」に激していた気持ちの昂ぶりが、徐々に消えていく。

「もう…ええんじゃ。…もう、昔のことなんかどうだってええ…」
「ワシは…ワシは、カナちゃんに「仕事」をして欲しかったんじゃ」
「…そいで、その中で自分も「仕事」していきたい…と、そう思ったんじゃから」

…カナはゆっくりと両手の指を開き、彼の顔をのぞき見てみた。

…変わらない体躯、相変わらずの強いくせ毛頭…困ったような、笑顔…。
少し無精髭が目立つくらいで、ほとんど何も変わってはいない。
…汚れるから立って欲しいとの彼の誘いに、カナはふらり、と立ち上がった。
…未完成じゃけ、泥だらけじゃ、と言い、雅一郎は彼女を院内へと案内した。


「治療用の椅子は3席…ここが事務室で、ここがX線室じゃ」
…彼女を従えながら、室内の概要を話す。
「…何をどう設えるか、イメージしか出来とりゃせんから、コンクリ丸見えじゃな!」

カナは声を聞きながら、まるで違う思いにとらわれていた。
「…どう言い出したら良いんだろう?…どう話したら?」
…確かに彼の心遣いは嬉しい。
そして「真心」も良くわかるつもりでいる。
…でも、彼とは「終わった」のであるし、彼がもし、今でも私のことを想ってくれるとしたら…。
「…でも、それはそれで…苦しい」

…彼の心がわからない。
…彼の本音がよくわからない。
…香苗は困惑しながら、話を持ち出すタイミングを待っていた。

<続く>



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2008年3月 4日 (火)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎12

<続き>

…「カナちゃん、ちょっと」と呼ばれ、カナはまさいちろうのいる方へ歩いていく。
彼は小諸の街並が見下ろせる、大きな窓のそばにいた。
「…これが、ワシらの街なんじゃな…」
夕暮れが近づき、赤みの増した空の下、街の灯がぽつぽつと点きだしている。
「…小さな街じゃ…ワシが居た長野や、カナちゃんがおった東京に比べれば、この街は格段に小さい」
「…でも…いや、だからこそ人情が厚くて…ワシは帰ってきたんよ」
…カナも同感だった。
彼女は小さく頷いた。
「…人の夢にも同じようなところがあるのかのう?」
雅一郎が言った言葉は、カナには俄かには合点が行かなかった。
彼は彼女を一度振りかえって見ると、続けた。

「…果てしない海や大地、どこまでも続くかのような街並…それはそれで素晴らしく感動的だけど…」
「「そこ」にポツン、と立っていると、自分が一体誰なのか?と思ってしまうじゃろ?」
「両手を伸ばして「何か」を掴まえようとしても、空気を掴むような、手応えの無いものじゃ」
「掴まえるものが無い、というのは「掴まる」ものも無い、ということ…」
「…そんなとき…自分が抱えながら過ごしてきた「夢」も、その「相手」を無くしてしまう…見せてあげたり、ぶつけたりする「対象」が無くなって…まぁ「寂しく」なるんじゃな?」

カナは、彼の言葉を黙って聞いていた。
不思議と心の中がしん、となって、他の事は気にならなくなっていた。

「…確かに…この街は小さな街じゃ…山に囲まれ、平地も多くない、坂道だらけの街じゃ」
「だからこそ…一緒に寒さをしのぎ、固まりあって過ごす…手の届く場所に「誰か」がおる」
「そうやって生きる…ワシらもそうだったはずなんじゃ?」

…そう…そうだったはず。
昔も、今も変わったりはしない。
「そう…そうよね。…みんな…7組のみんなともそうやって過ごしてきたもの…」
…夢を語ったり、傷つけあったりもしたけど、そうやって生きてきた。
この「小さな街」で…。

「…ワシらはここで夢を見ながら成長したんじゃ…ワシらが結局、帰ってくるのは「ここ」なんじゃないか…そう、思ったんじゃ」
「ワシらの夢は「誰かの手が届く」場所でないと辛い…まわりに何も見え無いような場所では育たん…少なくともワシはそうだったんじゃ!」

…カナの心に「さざなみ」のような感情が湧き上がる。
…そうだった…都会にいる時、仕事していて「楽しかった」けど「癒された」ことはただの一つも無かった。
毎日がエキサイティングで刺激的だったけど、ただそれだけ…。
次の仕事を待ちながら過ごしているみたいな日々…。

「…カナちゃん」「…?」
「…ワシはひとつだけ言う…いや「言えない」と思うんじゃが」
「…なに?」
「…夢を見ないか?…一緒に?」

心の何処かで想像していた…いや薄々気付いていたのかもしれない。
「話があったとき」どこかで「心の準備」はしていたのだろう…だけど…。

「…あ、の」声はか細く、ひりひりと痛むかのようだ。
まるで「何か」が喉に詰まっているように声が出ない。

「…私…そう、私、昔ひどい事したし…」
「連絡も取らなかったし…謝る事だって、していなかったし」
「黙ったまま結婚して!!…子供が出来て…こんなこと言えた義理じゃないけど…幸せだった」
「同じ事はしたくない…出来ない!…だから出来ないよ、そんなこと!!」

「…幸せ、は、一度きりじゃなきゃいけないのかのう?」
まさいちろうはカナを見てそう言うと、再び窓の外に目をやった。

<続く>




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2008年3月 5日 (水)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎13

<続き>

「ワシは晴(あいつ)みたく芸術家じゃないから、うまく言えんかもしれんけど…」
「一枚の絵を描きあげるのにも順番があるのじゃろう?」
「下塗り、デッサン、色付け…。でも、中にはデッサンがうまくいって「それ以上」に手を入れたがらない画家もおるらしいの?」

彼は人差し指で鼻をすするような仕草をしながら続ける。

「…自信が無い、んじゃな。…色をつけると「それから」が壊れてしまうと思いこんでしまう」
「技術は失敗の繰り返しのうちに磨かれるもの…それを恐がっていたら絵は完成しない…そうじゃな?」

…カナは頷いた。
「芦の原中学美術部」に入部したての頃、よく同じ事を晴ボンに言われた。
「もっと、どうどうと描いて!」って…。

「ワシらは…まだ完成品じゃない…これからなんじゃ」

…カナの心の中のカンバス…塗りかけのカンバスに、今「一色(ひといろ)」が置かれようとしていた。


…しばしの沈黙の後、彼女は一度頷いた。
それから小さく2回、3回と頷いてから、彼の顔を見つめながら言った。

「…手伝って、くれるんですか?」
「センスは無いかもしれんけど…それで良ければ」
「絵は技術(センス)じゃない…思い描く「感性(こころ)」が要るのよ?」
「大丈夫じゃ!!」
「…じゃ、見せてくれる?」

「二人で作ろう?…エンゲージ・リング」

そう言うと、カナは右手の小指を彼の前に差し出した。
彼もおずおずと、自分の小指を差し出す。

「…指きりげんまん 嘘ついたら針千本 飲ます!」
…二人で声を合わせながらの「指きり」。
何度も振った、二人の手。
幼い頃に戻ったかのようなひとときがあった。

「…指切った!」と思わず雅一郎は歌ってしまい、あわわ、と手で口を隠そうとした。
…しかし、その指は「強い力」で離れない。
カナが残りの手で「げんまん」を握ってしまっていたからである。

「…切ったら…ダメだよ?」
カナの暖かな眼差しが、雅一郎の目の前にある。
彼は自分の左手を彼女の手の上にかぶせてみた。
その手は小刻みに震えている。

雅一郎は、より強く自らの手を握ってみる。
その手の力は、彼の「これから」への意思の強さから来ていたに違いない。

…日はとうに落ち、いつしか望月の光が窓から差し込んでいた。

<続く>



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2008年3月 6日 (木)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎14

<続き>

…旧知の仲での「馬鹿騒ぎ」も、いよいよ終幕となり、夜の街に繰り出して飲み直しをする者、暫く会場での「立ち話」に興ずるもの、と、それぞれが式の余韻の中、それぞれの場所へと散っていく。

「あれぇ?我らが花嫁はぁ、何処に消えたのぉ?」
飲み直しじゃぁ~!!と原始人…じゃ無かった「旧姓 迎麻紀…柏木麻紀」が吠えている。
「…マッキー…今夜くらいは二人きり、ネ?」
「らりお言っているんら?…次はいつ会えるかわかんれいんだから…」
飲むぞ~!!何処ら~!!、と叫喚は止まない。

「…弱いくせに…飲みすぎるんだから」と、晴は眉をしかめた。
「どうやって、タクシーに積めこもうかな?」と、その手順を思い巡らす彼なのだった。


その頃二人は完成間近の病院にいた。

「さー、さて、最後の仕上げじゃな?」
薄黄色の壁に、大きなスペースがポッカリと開いている。
「なんとか、間に合ってくれて…感謝しなくちゃネ?」

100号の「大作」の油彩画は、ぴったりとスペースに入った。
その絵は、あの日、晴とカナが再会した画展での作品をモックにした新作である。

「…あの、今だから言えるんじゃが」
雅一郎は頭を掻きながら、カナに言った。
「ここに初めて二人で来たとき…あのすぐ前に、あの晴(バカ)がひょっこり現れよってのう」
「このオレに説教するんじゃ…「カナちゃんをどうするんだ!」って」
「昔みたいにの…こう言ったんじゃ「描きかけのカンバス、持ってるんじゃないの?」って」

…カナは壁の絵を見た。
「晴ボンらしいな」とカナは思った。

「…だもんで、あの台詞は借りもんみたいな…でも!本気じゃからな!!」
…わかってるわよ、とカナは思った。
あなたの「気持ち」が、私のカンバスに落としてくれた「一滴」。
わたしはその「最初の一色」を生涯忘れたりは、しない。

「…いつか、お礼に行かないとね?…ふたりで」
「いや…3人じゃ。日奈と3人」

…あ、そうよね?とカナは相槌を打つ。
「二人の時間」がとれないでしょ?と言いたかったけど、止めた。
これから喧嘩をする時間はいくらでもあるんだしね?と、カナは思い直して、笑った…。

<終わり>



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2008年3月 7日 (金)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…カナちゃん&雅一郎(あとがきのつもりで)

「終わった!!ー」
あー、終わった。

実際にこんなに長くなるなんて思わなかった。
文章が長くなるのは「クセ」だから仕方が無いとして、真面目に付き合ってくれた方には「感謝」です。

…実のところ、私には「想像癖」というものがありまして、
「…こんなじゃないかな?ー」とか、考え出すと止まらなくなると言う「悪癖」があります。
「すくらっぷ…」に関しても、それは適用されるものだったらしく、小山田先生が作品の最後に
「これからは君達の手で!」と書かれていた言葉を「勘違い」でもしたのでしょうか?…「どうなるのかなー、この後?」などと思い始めると、もう「♪どうにも止まらない!」のです。

しかし、そのままでは「正常な社会生活」が送れなくなる恐れもありますので、それは「心の小箱」に大切にしまっておきました。
そしてその「おもちゃ箱」をガラガラとひっくり返してみたら…そのきっかけは、例の「小山田いく選集」でしたが…転がり落ちる「想い」が鮮やかなのに触発されてしまい、またぞろ「想像」という悪癖が頭をもたげて来てしまったのです。

古いカメラを修理して使うように…または昔の「塩ビの怪獣」に「ジオラマ」を作って戦わせるように(私にはそういう趣味は無いですが)、私は「現在の自分の境遇や、経験」「すくらっぷの世界のキャラ達の世界」「ミックス・ダウン」させて「遊ぶ」という作業を始めてしまいました。
その結果の「一部」が、今回の文章です。

つまり、まだ「他のキャラ達の行方」も、自分の頭の中には有るのです。
今回のように、ある意味「現実離れ?」した世界が、頭の中では「勝手に」展開され、それはもう「パラレル・ワールド」です。
「なんじゃこいつは?」とは、どうか思わないで下さい!。
これも「愛着有るがゆえ、思い出の深さゆえ」と理解していただけると、私も大変嬉しく存じます。

「すくらっぷ・ブック」が、永遠の名作たらんことを!!。

<るみくす>
* * * * * * * * * * * * * * * * *

『注』

今回の文章は私「るみくす」の、作品(すくらっぷ・ブック)の「個人的な解釈」のもとに想像、記述したもので、作者である「小山田いく氏」の作品を誹謗中傷するなどの不利益をもたらす恐れがあるときは削除することもありえます。
その際には、コメントやトラックバック等も同時に削除させていただく事になりますので、どうかご了承のほどをお願いいたします。




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2008年3月 8日 (土)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…姉より、妹へ。

…今日、初めて「風花」が飛ぶのを見ました。
未だ紅葉が散り残っているというのに…「冬」が近いのね…。

長野(そっち)も寒いだろうけど、小諸(こっち)はもっと寒いと思うよ!。
外の掃き掃除してるとき、毛糸の帽子と手袋着けたもの!!。
…掃いては耳を覆って、それでまた掃いて…
浅間の「てっぺん」が白くなってきて…もう「いよいよ」って感じね!。

そっちはみんな元気?。
子供達は風邪なんかひいてない?。
暖かい「ブレンド」を飲ませてあげたいけど…ちょっと遠すぎるよね?。
年末に帰ってきたら、真っ先にお店(こっち)に寄ってよね?。
淹れたてのヤツ、飲ませてあげるからね!。
(まだ旦那のにはかなわないが…「深い」よね~!?)

…今日、聞いたんだけどさ!。
あの…なんて言ったっけ?…西…村?じゃないや、えーと…???。
…え~ともかく、あの「雅一郎」くんと良くツルんで悪さしてた「彼」!…あの子に聞いたんだけどさ、
彼…雅一郎君、小諸(こっち)に帰って開業するんだって!?。
ビックリしたわよ!!。
「…用地はもう決めてある」んだって!。
高台の…ここからは随分と遠いけど…さすが「個性的」よね?…彼らしい、って言えばそうかもね?。


ねぇ、「カナちゃん」のことは知ってるよね?。
彼女…最近、とても辛そうに見えるの。
一生懸命仕事してて…疲れているのはわかるんだけどね。

…この前ね?。

お店閉めようかな、っていう時間に、フラリ、と一人だけで来てね、
そのまま、店の隅のボックスに座って…
「コーヒー…あったかいの」って言うのね。

で、ブレンド淹れてあげて…
「他には良いの?」って聞いたら、ちょこっと頭を下げて頷いて…
「何も要らないの?」って重ねて聞いたら
ポロポロっ、て泣き出して…「要らない…要らない」って繰り返してて…
で…そのまま朝まで一緒に居てあげたんだけどね。

わたし達はさ…きっと「それなり」に幸せなんだよね…。
「少し足りて無いくらいがちょうど良いんだよ」って、旦那も言ってたけどね。

カナちゃんは…あの子は可愛そうだよ。
「空っぽ」なのに、受け入れること、恐がっている。
…大人だから…昔みたいに「あっけらかん」と切り替えること、もう難しくなっちゃったから。
…大人って…不自由よね?。

ねえ…。

わたし達…ううん「芦の原のみんな」で、出来ることって無いのかな?。
昔みたいに…おせっかいに、みんなで出来ること…。

みんなが忙しいのは、もちろん承知してる。
でもね…私は「今一度」昔のような「風景」が見たい!!。
みんなで悩んだり、悩ませたり…「仲間」って素晴らしい!って、あの時代(とき)私は初めて知った気がするんだもの!!。

…一番上の娘…来年は中学でしょ?。
今の学校は…もちろん、あなた達が通っていた頃とは違うけど…なんか「冷たく」感じちゃってね。

だから「娘にも見せたいな」という「欲」みたいなものも有るのよ。
困ったとき、苦しいときに支えてくれる存在は「いつだってそばに居るんだ!」って、娘や、娘の同級生達にも知って欲しい。
時間が経っても…暫く会っていなくても、あいさつひとつで昔に戻れる。
級友の苦しみを、昔と同じ…いいえ「自分が成長した分だけ」理解できるはずだ!、って胸を張って言える…そんな「大人」に成れたんだと証明して欲しいの!。

…私も…たぶん、あなたや「みんな」も、未だ「夢の途中」…そうじゃないかしら?。


とりあえず、私は私で動いていくつもり。

お店に来る「みんな」を扇動して…きっと「道」を作っていくからね!。
あなたは、あなたの「旦那」の方をヨロシク!。
クマを「冬眠」に入らせないように!…おねがいね!?。

それじゃ、吉報を心待ちにしているわ!?。
また、年末に会えるのを楽しみにしています。


敬愛する妹「坂口かがり」様へ。
あなたを信頼する姉「五島由紀」より…。


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2008年3月15日 (土)

すくらっぷ(予告)「桜井光代」編

えー、再び書いております(笑)。

前々回の「雅一郎&カナちゃん」編、そして前回の「姉から妹への手紙」に続きまして、今回は「桜井光代」さん編です。

現在までに「6話分」執筆しております。
今回もまた…長くなってしまう予感がしてcoldsweats01
「ありゃー!!」と思っている次第です。

もちろん「想像上のお話」なので、これはフィクションです(当たり前だ!)。
「すくらっぷ…」のイメージを重ねられて読まれる方が多いはずです(もちろん書いている私自身がそうです)が、
「そんなの、違う~!!」と言われても責任は負えませんので、そのつもりでbearing

今回は「色恋沙汰」は、ほとんどありません!。
かなり「暗い」色合いに現在はなっていますが…最後はもちろん「ハッピー!」で終了です。
乞うご期待(なんのこっちゃ?)。

では明日からのアップを…楽しみに???。
<るみくす>

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2008年3月16日 (日)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…<みんなのポートレイト>

ほら!もう!。
…またフイルムの「番記」間違えてる!。

「だってー先生の「撮り」って、すっごく速いですもん」
「ハッセルであれだけ「早撮り」する人、いませんよ」
…だから何だって言うのぉ!!。

…確かに現在は「デジ」ばかりで…モニター見ながらモデルさんと
「良いよねー!」なんて言いながらの作業ばかりだけど。
やっぱりね…人間「ここっ!」ってときは「アナログ」なのよ!。

写真って奴は…所詮は「平面」…二次元の「情報」に過ぎない。
デジタルはその「情報」を、人の手で「どんどん」変えていける。
でもね…いくら巧くイジってみてもね「オリジナル」の情報より「豊か」になんかならないのよ。
見た目は見た目…モデルさんの「シミ消し」程度の問題じゃないのよ。

…ね!。
わかったら、さっさと「ホリゾン」片付ける!!。
スタジオ代だってバカにならないんだよ!…おまけにキミらの給料だって払わないといけないんだから…Ah…。

さて…あと「1ラウンド」だ。

次の仕事を終えれば、どうにか新幹線の時刻に間に合いそう。
「向こう」ならなんとか、ホテルも飛び込みで押さえられるだろう。
…「相手」も忙しい身の上…私だって「とんぼ返り」で撮影だ。
よし!!気合入れていくゾー!!。


…「故郷」に頻繁に通い始める事になったのは、今から十年くらい前の事。

当時の「師匠」の「サブカメ」として動いていた私は、「旅から旅」の生活で、東京に出てきてからというもの、すっかり故郷とは縁遠くなっていた。
便りが来るたびに「帰らなきゃ」とは思うのだが…スケジュールがそれを許さなかったし、来る便りの中には「お見合い」用の写真なんかもあったりして…余計に気が重くて…それで尚更。

一番の理由は師匠からようやく「お墨付き」が出て、独立が間近に迫っていたということ。
撮影以外にも雑事が多くて…正直「それどころじゃない!」って気分だった。

師匠は「風景」や「紀行もの」もやるけど、時々はスタジオでモデルさんも撮る…そういうオールマイティーな人だった。
「写真で食う!」ということを、骨身に染みるほど叩きこんでくれた人だった。

「女とか、男とか関係ねぇー!」
…って、いつも怒鳴られたっけ。
「…写真屋は、写真で食う…他の食い扶持なんか考えるなよ!」
そういって、いつも笑った。
…頑固で、優しくて、厳しい人だった。

そのおかげもあって、私は独立しても「いきなり」食っていけた。
もちろん、師匠が影で「根回し」してくれたとは思ってるけど…スタートそのものは至極順調だった。

…旅行誌のグラビア10P、カメラ雑誌に風景写真の枠を5P、女性誌にモデルのヌード6P…
ときには「自分自身」が同じ雑誌の取材を受けたりして…
…名も売れ、作品も売れ…と「絶頂の時間」は意外にも長く続いた。
「TVの出演」も増えてきて…「なんか私って芸能人?」なんて錯覚したりして。
いろんな収入が増えてきて…「慢心」したのかな?…撮影に費やす時間は、減っていく一方だった。

そんなときだった。
随分顔を合わせられない日が続いていたけど、ある時偶然に師匠に会った。
師匠はサングラスをずらしながら、私の顔をのぞき込んで

「よう、元気か?」…そういって、笑った。

<続く>

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2008年3月17日 (月)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…<みんなのポートレイト>2

<続き>

「…おかげさまで、どうにかやってます」

…私は師匠と目を合わせることに「羞恥」を感じないではいられなかった。
師匠の「写真以外で飯を食うな!」という言葉から、外れた道を歩いている自分。
「出会いの場所」が、大手民放局のロビーというのも最悪だった。

思わず私はうつむいた。
「どうしたら…どうにしたら…」と、小学生の子供のように逡巡している私を見て師匠は言った。

「…どうした?」
「…すいません!…師匠の言いつけ、守れてないんです!」
「言いつけぇ?」「写真以外で飯食うな…って」
師匠はポカン、とした顔をして

「活躍は良く知ってる…悪い事でも無い…そうじゃなくて」
「元気か?って…疲れてないか?って意味だよ」
そういって、優しく微笑んでくれた。
その笑顔を見て、私の緊張は解けた。

「…はい!おかげさまで!」
「その台詞、さっきも聞いたぞ!」
「…あ、そうでした、ね?」
…おいおい、しっかりしろよ…仕事に穴開けんなよ?と、師匠は笑った。

「…師匠は…ほら、あの○○の記事!」
…私は師匠の、もう十年以上も連載を続けている、月刊の仕事の話をした。
「目標とするひとつ」としての、師匠の仕事だった。

「…いや、実はな」
「あの仕事は、もう終わりにしたんだよ…来月号で打ち止めなんだ」
「…師匠?」
…口篭もる師匠の口ぶりに、私は内心嫌なものを感じていた。

「光っちゃん…あのなあ…」
「俺…あんまり時間が無いみたいなんだ」
「え?…」
「網膜剥離…手術、失敗しちゃったんだよ」

…師匠は、写真も好きだが、同じくらいの「酒豪」でもあった。
小山のような体格で、良く食べ、そして良く飲んだ。

「ほら俺、糖尿持ちだろ?…医者も嫌いだったし、無理したし、さ…」

…自覚症状が出て、私が眼科に無理やり連れて行ったときには、網膜の一部が剥離しかかっていた。
でも…手術は成功したはずなのに。

「それから昔馴染みの仕事が入ってきて…どうしても断れなくってさ」
「医者は仕事は厳禁!って言ってたんだけどさ…アイツの仕事だからさ…」
「で…この有様さ…でも、納得ずくの事だからなぁ」

そう言って、師匠は自分の右目を指して
「こっちはもう、ほとんど見えない…左だけがなんとか、って感じなんだ」

…ショックに一瞬視界が暗くなった。

「そんな…だって…」

ふいに涙が落ちる。
どんどん、どんどんと流れ落ちてきて止まらなくなる。
両手で顔を塞いでも、手の隙間から流れ落ちる涙が、床に零れる。

…それは「喪失」の悲しみだったのかもしれない。
最良の「師」を失う事…それは頼るべき存在を無くすのと同時に、今までの「時間」が「過去のもの」として切り離されていく事を意味した。
私は激しく狼狽していた。

「ありがとう…ありがとうな、光っちゃん」
「でもな…後悔してるわけじゃないから…」
「…俺には「オマエ」という作品が残ったもんな…だから、泣くな」

…そういって師匠は、私の頭に「大きな手」を載せて、また笑った。
私は人目もはばからずに、子供のように、ただ泣き続けていた。


…その日は肌寒い冬の日だった。
スタジオでセッティングに奔走しているとき、スタジオのアシスタントが「電話です!」と呼びかけた。
誰だろう?と思いながら受話器に出ると、女性の声がした。

「もしもし…杉原ですが?」
「!…どうも…ご無沙汰してます…光代です」
「光代さん!?…あのね?主人が!!」
「…奥さん?」
「主人がね!…倒れたの!…意識が無いって…」
「…え!?」
「救急車で運ばれて…光っちゃん!ごめんね!仕事中でしょ!?」

…動転し、続けて謝り続ける奥さんをなだめながら、私は病院の場所を聞き出した。
スタジオではセッティングが終わろうとしていたが、幸い懇意にしてもらっているクライアントさんだったこともあって、急遽キャンセルしてもらった。
私は悪い思いを振り払おうと、一人タクシーの中でもがき続けていた。

<続く>

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2008年3月18日 (火)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…<みんなのポートレイト>3

<続き>

…師匠の家は、閑静な住宅地に有った。
築30年以上の古い家で、けして大きなものではなかったが、そこで師匠は奥さんと二人で暮らしていた。
…結婚されて家を出られた娘さんと、入れ替わるようにやってきた私を、師匠は良く家に招いてくれた。

「…これがね、光っちゃん…最後に握ってたカメラなんですよ」

…すっかり地金が剥き出しになり、角が丸くなっている「ハッセル」。
「ウエストレベル」のファインダーがついた「それ」は、写真が「真四角」に写る「6×6」だった。

「「これ」を付けた三脚ごと、前のめりに倒れたらしいの」
「でもね…それでも…カメラを抱きしめるように倒れていてね…」

カメラにはかすかに砂が着いていた。
湖畔の砂、だと言う事だった。
…咄嗟にカメラを守る本能が働いたのか、ボディもレンズも綺麗だった。


「主人の形見、として差し上げるつもりなんだけど…」
そう言ってから奥さんは、私の茶碗にお茶を注ぎ入れて、小さく溜息をついた。
「本当はね…私は嫌なの」

「光っちゃんが「特別」なのは、主人だけじゃなくて…私だって同じなのよ?」
「だから…「あんな風」にね!?…一人ぼっちで苦しみながら死んでいくような…あんな姿は!!」
「…!!」
「嫌なの…もう…」

「…でも、師匠は…写真家だから…写真を!」
…愛していたから、という言葉を、私は強引に飲みこんだ。
…だったら…遺された存在は一体どうなるんだろう?。

私は黙ってしまった。

そうだ…確かにその通りだ。
人はなにかを「選択」しながら、絶えず生き続ける。
「記録」するのが写真家の使命だとしたら…その「選択」は、
「自分の時間を、他者に遺す」事かもしれない。

「何千枚写真が残ったとしても、今の私には言葉一つにもなりゃしないのよ!?」

そう言った、奥さんの言葉が辛かった。
写真を撮って生きる人間として。
そして…同じ「女」として。

「…でもね…「これ」は渡さないと、って気がするの」
カメラを持ち、そっと埃を払うように撫でながら、奥さんは言った。

「あなたは主人と同じ人間(ひと)だから…きっと「これ」を必要とする時が来ると思うの」
「その時が来たら…一緒に連れて行って…お願いよ?」
そう言って彼女は、丁寧にカメラを清めたあと、小さなバックにカメラを入れて私に渡した。

「主人のカメラはね…本当はね、私がみんなキレイにしてたのよ?」
放っておくと、壊れちゃうもんね?と言いながら、彼女は微笑んだ。
その笑顔はどこか満足そうで、それでいてとても哀しげに見えた。

<続く>

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2008年3月19日 (水)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…<みんなのポートレイト>4

<続き>

師匠が急逝した後の私の仕事は「散々」と言って良いものだった。

特別仕事量が減ったわけでは無い。
質の良い仕事もたくさん有った…が「結果」がどうも思わしくないのである。
まるで体内に有る「多数の歯車」の「ほんの一つの歯」が欠けてしまったような感じなのだ。

「見た目」は変わらない。
でも「なにか」が確実に変わっている。
ギクシャクした動きを感じながらの仕事は、周囲にも伝染するように、スムーズな連携をも崩壊させていった。

…最後の「テレビ」収録のときに、言われた「一言」が胸に刺さった。
「隣に居てもわからない事が、画面の向こうの視聴者にはわかるもんだよ」
彼は私の肩をポン、と叩きながら
「まぁ、時間は有るんだからさ!」と言った。

これが「励まし」に聞こえなかったほど、私の気持ちは「ささくれ」ていたんだろう。
がむしゃらに仕事に邁進する時間が続いた。


一人で居るとき、師匠の「最後」を考えた。
「私なら…私はどう、生きて行くんだろう?」

中学のときに「写真家になる!」と決めてから、まっすぐに突き進んできた人生だった。
最良の師匠に会って…他には何も無い「真っ白な時間」を歩んできた。

師匠の人生は…どうだったんだろう?。
私は師匠の家に向かった。


奥さんはこの前会ったときよりも、確実に落ち着いた表情をされていた。
痩せはしたが、顔から「憂い」の影は消えうせていた。
そのことが何よりも、私を安堵させてくれた。

「…あの人の?」
「…はい。…ホントに「写真一直線」だったんですか?」
「…ええ、まぁ確かに「あの性格」ですから…でも「ずっと」というわけじゃないのよ?」
「…?」
「…私と付き合い出したとき、彼は「写真を止める!」って公言していたのよ」
「えっ!?…」

「アマチュアであらかたの賞を獲って…慢心、もあるけど、なによりも写真を続ける「お金」が無かったの」
「だからね「もう良いや!」って気分だったんだと思う」

…意外だった。
「血液が現像液で出来てる」んじゃないか?と周囲で言われていた師匠にも、そんな時代があったんだ。

「…それでね?…二人で朝早く「山中湖」にドライブに行ったのよ」
「夜明けの富士を見よう!って彼が言い出してね…それで」
「暗いうちから岸に座って…肩寄せながら夜明けを持ってた」
…恥ずかしいなぁ、若かったよね?と奥さんは笑っていた。

「でもね…夜明けになったとき、彼、両手の拳を握って振るわせながら、こう言ったのよ!?」
「「ああっ!!カメラが無い!!」って」

「呆気にとられたわよ!…で呆然と彼の横顔を見るだけだったんだけど、彼、その後こう言ったのよ」

「未だだったんだ…終わっていなかったんだ」
「…そう言って…。あの時の顔は、今でも忘れる事が出来ないわね」
「そう…それからが「ずっと」なのよ」

「師匠は自分の本音に気付いたんですね?」
そう私が言うと、彼女は「うーん?」と、少し首を傾げてから答えた。

「…謎が解けた、っていうのが正しいかもしれないね」
「謎…?」
「そう。「何故撮るのか?」っていう謎…それがわかった、というのがホントのところだと思う」

何故撮るのか…。
そう、それが知りたくて、私はここに来たんだ。

「仕事は嫌いじゃないんだし、楽しいんだから、何も考えなくても良い」
そういうふうに、ずっと思って、ここまでやってきた。
師匠だって「写真で食え!」って教えてくれたんだし…。

「…そんなにも、その瞬間(とき)って、素晴らしい風景だったんですか?」
そう言うと彼女は、何度か首を横に振った。

<続く>

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2008年3月20日 (木)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…<みんなのポートレイト>5

<続き>

「空は曇天、山は見えないし…お世辞にも「ハズレ」って感じだったわねぇ」

…見えないものは、写真にも撮れない。
誰だって「曇り空」で、何も見えない風景にカメラを向けたりはしないだろう。
では師匠は何故「カメラが無い!」と言ったのか?。

「確かにね…あのとき手元にはカメラは無かったわ…でも、彼の「心の中」にはちゃんと「有った」んでしょうね」

「心の…中」
「そう…だからこそ「現実のカメラ」が無い、ということが彼を驚かせた」
「…でも、そうだとしたら師匠はやっぱり「本音」が見えたんじゃ…」
…そうね、でも、と奥さんは私の言葉を聞きながら答えた。

「写真は「心の中」まで撮れないわ…見えるものしか撮れないもの」
「…」
「「曇天の空」は彼の今の心…でも「それを伝える」には「道具」が要る…そのことに彼は唐突に気づいたんじゃないかと思うのよ」

…私の心が、小さな音を立てた気がした。
それは「小さな音」だったが、確かに私が待ち望んでいた「音」だった。

「…こういうとね、ちょっとナンだけど…」
「自慢っぽく聞こえるけど…「私」という「見せる相手」がそばに居たから…彼も気づいてくれたんだと思うのよ?」

…そう言って彼女はクスクスと笑った。
良い笑顔だった。

「…あのね…最後にどうして主人が「あそこ」に行ったか理解らなかったの」
「病気をおしてまでどうして?って、ずっと考えてきたの」
「でも…それがね、やっとわかったのよ!」

…そう言って、彼女は一枚の写真を見せてくれた。
それは朝の透明な空気の中に佇む、富士の神々しい姿だった。

「…彼は自分の「今の気持ち」を、私に遺したかったんだ、と思ったのよ」
「今の自分の…気持ち」

一点の曇りも無く、波穏やかな湖面に、浮かぶように聳える富士の姿。
それは雄々しくも優しく、雄大な姿だった。

「…師匠」
その後に言葉は続かなかった。
師匠への愛しさ…そして「人への愛しさ」が、涙となって溢れてくるのを私は感じていた。

「私はね…やっぱり、最後まで幸せ者だったってねぇ…気付いたんですよ」
そう言った彼女の目にも、光るものが宿っていた。

<続く>

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2008年3月21日 (金)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…<みんなのポートレイト>6

<続き>

師匠の家を訪ねてから数週間ほど後のことだった。
小諸から「手紙」が届いていた。

懐かしい文字。
大きくて、そのくせ、お世辞にも上手とは言えない文字は
「披露宴の出欠」を問う手紙だった。
どうやら実家から「転送」されてきたものらしい。

「おーお!なんと、ついに!!」
と、驚いてしまった。
彼(か)の主は「あの二人」かあ!?。

…すごいなぁ。
この都会(まち)で暮らしていると、人の繋がりは凄く「スピーディー」で、しかも希薄だ。
昨日と今日が連携してないような錯覚を覚えそうになることがあるくらいに。

手紙には「招待状」の他に「別の手紙」も入っていた。
…大きな字。坂口君の文字だった。

* * * * * * * * * * * * * * * * *

 …元気か?。最近テレビとかの露出が少なくて、週刊誌はいい加減な事書いてるから、こっちは少し心配してるぞ…信じちゃいないけどな!…忙しいのが無事な便り、ってことで。…でも身体には気をつけろよな…。
 
 さて、招待状の通りで、こっちで盛大に二人の結婚式を盛り上げる事になったんだが、もしも出席できるのなら、光っちゃんに撮影を頼みたいんだが…お代は…悪いけど「自腹」で頼まぁ…なにぶん「仲間内」ばかりで、資金が無いんだよ。
 
 …出来れば俺も会いたいし…もちろん女房も、みんなも会いたがってると思う…当の本人たちだってな?。
 
 …じゃあ、期待してるよ?…小諸(こっち)で会おうぜ!。

* * * * * * * * * * * * * * * * *

…うーん、なんて強引な手紙!。
しかし、確かに彼らしいかな?と思える。

…当日は確かにスケジュールも緩く、行こうと思えば行けないことは無い。
私は「出席」に丸をつけて投函した。

* * * * * * * * * * * * * * * * * 

…秋晴れ!。

「ど・ピーカン」な空から、まっすぐに光が入ってくる。
私が大好きな「秋の光」が、たくさん降り注いでいた。

目に付くところから「かたっぱし」に撮っていく。


「…え!なにそのカッコ?」
「これ?…営業用の衣装さ…地味じゃない?」
「…ハデ過ぎ。…ねぇ!ポーズとってよ?」

「久しぶり!…ホント、久しぶりよねぇ…」
「…ご無沙汰しちゃって…」
「そうよ、ずっと帰ってこないんだから…って、私が言えないか?」
「…仲良くやってる?」
「…どうにか、ね?…最近は口喧嘩がコミニケーションみたいだけどね!」
「ほー?。…相手が居ないヤツに言うかぁ?」
「えー!!、そんなことないでしょ!?…だって俳優の…」
「??。ああ、あれ「大ガセ」ね!」「そうなの?」
「ホントはね…彼「○×△」と良い仲なんだよ」「マジ?」


…ステージの裏側に入りこんで撮影しようとしたら「ダメ!」って怒られた。

「…なんでダメなの?」
「ダメ!…例え光っちゃんでも、ダメ!」
「…だって、仕掛けがわかったら感激しないでしょ…光っちゃんにも味わって欲しいんだよ」
「それはわかるけど…なんて言うかさ」
「…商売根性出したらダメだよ…今日は特別なんだからね!」

「…昔に戻って欲しいんだ…みんな、昔に帰って欲しい…」
「この場所…ここから再び「スタート」を切るために!」

「晴ボン…」

「それは光っちゃんでも同じ…わかってくれる?」

…わかるよ…それはとても良くわかるつもりだよ。
それに「キミ」の言葉だもの…私が逆らえるわけ無い、よね?。

「ありがと…晴ボン」

そう心で言いながら、私はステージの彼を撮った。
広角レンズで思いきり近づいて、秋の青空に抜けるように「シルエット」をとらえた。
小さい体躯が、そのときは天空を支えるように大きく見えた…。

<続く>


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2008年3月22日 (土)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…<みんなのポートレイト>7

<続き>

…当の「二人」の姿は、感動的だった…けど、やっぱり「ちょっと、変」。
撮影しながら感動したり、笑ったりして、涙が出てきたのは何年ぶりだったろう?。
ずっと、ずっと昔の事のように感じる。

「写真撮ってばかりいないで…ホレ!」
と、ビールの缶をほっぺたにくっつけて来たのは坂口君だった。

「あ…ありがとね…そういえば挨拶もちゃんとしてなかったね?」
楽しんでるだろ?、だったら良いよ、と彼は自分のビールを開けた。
「うん…正直言ってね?こんなに楽しい時間は、無かったんだ、ずっと…」
彼は、うん、と頷いて、残りのビールを飲み干した。

「充実はしてたの…それが「楽しい」って信じてた」
「疲れちまったのか?」
「…ううん、そうじゃない。…でも「楽しむ」って意味を無視してきた気はしてる」
「ふむふむ」と、彼は替わりのビールを持ってきて、開けながら頷く。

「…仕事そのものは楽しかったんだろ…じゃぁ問題無いじゃないか?」
「そうよね…でも私、最近大事な人を亡くして…それからどうも、ね?」
「…恋人、か?」「…!。違う違う!!」
「師匠よ…私の写真の先生」
…私は彼に、簡単に師匠との馴れ初めと、師匠の「生き方」について話した。


「…建物、ってヤツもさ…一旦建っちまうと寂しく感じるもんだよ」
…ちょっと例えは違うがな?と言いながら、彼は続けた。

「そんなときに思うよ…「何のために?」…別に俺が住むわけじゃないのに?」
「金のため?、家族のため?、会社のため?…違うだろ、そうじゃないだろ!って心のどこかが不満がるんだ
「それだけじゃ、納得できない…理由にならない…暫くの間そう考え続けてきた」
…そんな時だったよ、と彼は空を見上げながら、私に言った。

「地震…あの直下型の大震災が起こった…凄かったろう?」

「「あれ」を朝のテレビで見ていてさ…俺はテレビの前から暫く動けないくらいにショックを受けたんだ」
「…壊れている…ビルも、橋も、高速道路も…そして人間だって…」
「出勤したことは覚えているんだが…その間の記憶が無かったくらい、ショックだったんだよなぁ」
彼はビールの残りを飲み干し、ひとつ溜息をつくと、続けた。

「暫くの間はもう…全く仕事をするのが嫌になっちまったよ…絶望的な気分だったなぁ」

「…でも、それがきっかけで、俺は「理解」出来たんだ」
「「人の未来」を、俺は任されているんだ、って…だからヘナチョコなものは作ったら駄目なんだ!って、わかったんだよ」

「…光っちゃん」「…?」
「結局のところ…最後に来るのは「人間」なんだと思う…戻る場所はいつだって…」
「…人間?」
「そう。…生活、って言い換えても良いかな?」

「…そうか…きっと、そうなんだよね」

…師匠は「どんなときも」同じ目をしながら、被写体に向かっていったような気がする。
表情は違ったけど、撮影しながらその「向こう側」にあるものを凝視していたんだ。
きっと「写真」を通しながら、どこかの誰かと「会話」をしていたんだね…。

「楽しいだけじゃ…ダメ、ってことね」
そういうと、彼は微笑みながら首をゆっくりと横に振って言った。

「楽しくないと、ダメなんだよ!」
「自分がまず、楽しまないといけないんじゃないか?…そうでないと「思い切り」の仕事は出来ないと思うぞ!?」
「…光っちゃんには「ちょっとだけ」何かが足りなかった…その「ちょっと」を見つけないといけなかったんだよ」

「…ちょっと?」「そう…たくさんじゃない「ちょっと」だ!」

「まずは…自分が「どこから始まったのか」を確認しないといけないんじゃないか?」
彼はそういって、またビールを取りに行った。

「ちょっと…か?」 

空を見上げると、宵の明星が輝いていた。
何か肩の荷が下りたような、体がふくらむような、そんな気分がしていた。
…私は、カメラを自分に向けて、一枚シャッターを切った。

<続く>

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2008年3月23日 (日)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…<みんなのポートレイト>8

<続き>

「軽井沢です…しなの鉄道にお乗り換えの方は…」

…っと!
いつの間にか眠っていたらしい。
スケジュール確保のためとはいえ、連日の撮影は厳しいねぇ。
…もうすぐ四十…私も若くないのかも?。

ホテルのロビーで、明日の撮影の打ち合わせ。
…被写体の「二人プラス1」は、もう到着していた。

「…子供がグズるから「外でお食事ね!」って、強引に連れ出したのよ!」
「…オラは家で茶漬けでも良かったんだけんど…」
「これだもんねー?…まぁ、正直私もそうだったりするんだけどね?」

…「二人」は、郊外の畑で「有機栽培」の野菜を作っている。
その「作業風景」と、小諸の自然を絡めた一枚が欲しかった。
あとは三人一緒の「ポートレイト」と…。


「光っちゃん?」「…?」
「変わったよねぇ…デビューのころはなんとなく険しい顔しててさ」
「だから…この人はもう帰ってこないのかなぁ?…って思ってたんだよ?」

私は笑いながら、首を振った。
…そんなこと無いよ…帰って来たくなかったんじゃなくて「帰れなかった」んだよ…。
忙しいとか、そんなのはきっと言い訳で、ホントは「自分で自分を封じてた」だけなんだよ。

「…「ばーチャン」は、変わんないね?」
「え!?…その呼び方で言うかぁ?…今でもぉ?」

アハハ…ごめんごめん!と言いながら、大きく手を振ってみる。
彼女も怒っているようで、本当は満面の笑顔だ。

胸が「キュン」と甘酸っぱく痛む。
ふいに涙が出そうになるのを、こらえながら笑った。

…帰って、来たんだ!。
本当に嬉しい…。

…この「嬉しさ」を、形にして残したい!。
…この「感動」を、もっと味わっていたい!。
その「想い」から「芦の原ポートレイト」は始まった…。

私「ちょっと」を見つけられたよ…だからもう大丈夫だよ…師匠!。

…そして坂口君。
「貸し」を「おまけ付」で返してもらったね!。

だから、ってわけじゃないんだけど…
…実は…結婚するんだ。
だから、ね?…私の分のポートレイトは…。

<終わり>

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2008年3月24日 (月)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…<みんなのポートレイト>おまけ…「芦の原ポートレイト 写評」

「芦の原ポートレイト 写真:桜井光代
…過去・現在・未来~スチル・オブ・ライフ

                           写評 留美多久寿男


…「写真」というものには、特有な哲学がある、と評されることがある。
それは往々にして写真が「過去の出来事」を採取し、それを「現在」という天秤に載せかえるという行為により、その「転化」を図るから、ということからのようである。

19世紀の画家「ポール・ドラローシュ」は、写真の登場を知り、こう嘆いたという。
「絵画は死んだ!」と。
しかし、この21世紀の現在において「写真」と「絵画」の棲み分けは、非常に確実に進み、両雄の地位は安定していると言えよう。

これは言うまでも無く
「写真というメディアの特有性」を、その「行使者」が理解していたからで、幸いにして「それ」らは万人に受け入れられる事となった。
写真の「可能性」は、その「行使者」が「気付いていく」事により、その地平を拡張し、そしてそれはまた「絵画」の世界とも干渉しながら振幅を広げ、ついには大きな「二つの潮流」をも形成することとなったのである。


「フォト・グラファー」と呼び方は違うが、現在の「写真の使い手」である一人「桜井光代」も、その「時間軸」に居並ぶ存在のひとつである。

彼女の仕事は、師匠である「故 杉原三太」氏の仕事を忠実に継続してきた。
手法や、現代的感覚の取入れなどの「差異」はあるが、撮影の基本姿勢にその「ズレ」は無い。
やもすると「コピー」と言われかねないが、その危険性を承知で、彼女は姿勢を甘んじて変えることはしなかったようだ。

また、この「デジタル全盛」の写真界で、頑固なほどに「アナログ」に拘るのも、彼女の特徴のひとつと言えよう。
彼女が使用している機材を見せていただいたことがあるが、それは皆、金属の地金がむき出しになった「アンティーク」とも言えるような品ばかりであった。
その中でも私の目を強く惹いたのが年代ものの「ハッセル・ブラッド」であり、それは師匠から譲り分けてもらったものだと言う。


今回の「評」を書くに至って、私は当初逡巡した。
それはこの「ポートレート集」が、あまりにも「プライベートな記録」の域を出ず、「評」を差し挟むことに些か躊躇いがあったからである。
自分の「行為」が、あまりにも「無粋」なような気がして、羞恥する感情が筆を取らせなかった。
「家族ビデオを他人から見せられているような」居たたまれなさを思っていただければ、お分かり戴けるだろうか。

執筆が進まないジレンマを抱え、ついに私は「禁忌」を犯すことにした。
当の本人に面会し、作品の「製作動機」を伺ったのである。
これは評論家として唾棄すべき事柄といえるが、その「成果」は次の通りだ。


…彼女の「中学生活」は、現在では考えられないほど「豊か」であったと言う。
「友情と言う言葉が、隣同士の机の上で踊っているような日常」が展開されていたと言う。
3年間の中学時代は、彼女の人格を形成する「器」であり、写真家になると言う「夢」も、同じころに形成されたものだという。

実際の現場の中で、着実な「進歩」を遂げた彼女の「技術」であったが、師匠が急逝したころ、撮影に「迷い」を感じ始める。
技術力はすでに「データベース」を構築済みであり問題はなかったのだが、師匠と言う「軸」を突如無くしたことによる「ブレ」が、円滑な作業を彼女から奪ってしまったのだ。

「新たな軸の模索」を図ろうと懸命だった彼女は、帰郷をきっかけにその「軸」を発見する手がかりを得た。
自らを「構築」する要素の「洗い出し」に必要だったのは、「過去の発見」という非常に「写真家らしい」手段であったのだ。

「ポートレート撮影」は、こうして始まった。
写真と言うメディアは「現在」しか撮影できないが、過去の経過を「意図的に」含めることは可能だ。
絵画のように「記憶の復元」はできないが、「現在と過去」を圧縮し、それを「未来」に受け渡すことができる。
彼女はそれに「賭けた」のである。

そしてそれは成功し、彼女の「復元(リカバー)」も作品の完成とともに完了した。
彼女は現在も一線の写真家として、鋭利活動中である。


肝心なことを言い忘れていた。

「私の写評はどうしたのか?」とお怒りの方々も多勢いらっしゃるかもしれない。
しかし先の「家族写真」の理(ことわり)通りで「口に唾して喋る」ことこそ、その「本質」に対する「愚弄」なのだと理解した以上、言葉を駆使した作業など、最早必要無いのではないだろうか?。

「写真にキャプション(説明)は要らない」と言っていた、写真学校の先輩の言葉を懐かしく思い返すのみなのである。


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2008年3月30日 (日)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…主婦のひとりごと

…雪が降っているなぁ、今日も、昨日も…。
いい加減、止んで欲しいのよね…洗濯物が乾きゃぁしない。

…あーあ、「白い雪」がロマンティックの象徴だったなんて、まぁ…私も可愛かったよねぇ。
今になると南国の太陽や、緑の野原が懐かしいよね。

…でも「憧れ」を抱いて、この信濃の地に降り立った時の事は、しっかりと覚えているの。

…だんだんと車の窓から見える浅間山が大きくなって…見上げるほど大きくなったとき、車が停まって…。
「ここに住むんだ!…これから始まるんだ!!」と思ったら、足がガクガク…って震えてた。
…胸いっぱいに、高原の空気を吸って…って、希望が叶った嬉しさで、身体がいっぱいになった気分だった。


…みんな…芦の原のみんな。元気でいるかな?。
地元の人には良く「かめやスーパー」や、相生町で会ったりするけど、長野市や、松本に行った人達は、動向が詳しく知れない。

良く会うのは、野菜を安く分けてもらえる…「ノーミン」君くらいかな?。
彼はホント、かわんないよね。


彼に貰った「緑の種」は、我が家の庭で、小さいなりにも立派な樹に成長しつつある。
ダンナと結婚したとき、彼の立会いで、植樹祭の真似事の様な「儀式」をした。
庭にひとつ、ふたつと鍬を入れ、鉢植えにしておいた苗木を植えた。

不思議なもので、ダンナと彼の「絆」は、中学を卒業してからも続いてきた。
…まぁ、自分で言うのもなんだけど、私をめぐる「争奪戦」が、形を変えて友情に変化した、ということなんだけどね…ふっ(笑)。
…我が家の「明日檜(あすなろ)」は、しっかりとこの冬の寒さに耐えている。


…そういえば、懐かしいな…みんなで高峰に遊びに行ったっけ。
落葉松の森に雪が凍って…遠くに小諸の街が見えていた。

…光り輝いていた時代。
そんな時間が本当に貴重なんだ、ということに、あの頃の私は気づいていたんだろうか?。

…ううん…多分、わたしたちは「知っていた」。
毎日、毎日が「楽しかった」もの。
「時間よ止まれ」って、そう思っていた。

「受験」と言う理不尽な「掟」だって、みんなで「跳ね返して」やった。
…そして「別れて」来たんだもの…明日の「自分たち」の為に。


…手紙でも、書こうかな?。
アドレスが判らない人もいるけれど、判っている人には、手紙を書こう。
…また、みんなで「集まろうよ!」って。

…あ!でも、その前に洗濯機が止まっ…。


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2008年4月14日 (月)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」前書き

うっはぁー!!

今、終了しました。
次回作「彼らの行方」の主人公は「戸沢正賢さん」です!(パチパチ)。

とっても「地味」な存在だけど、ところどころの「ストーリー」で「サブキャラ」として活躍する彼。
計算してみたことは無いけど、登場コマは意外と多いんじゃないかな?。

「すくらっぷ…」そのものが、ある意味「超人集団」(雅一郎なんかはまさしく妖怪…超人ですよね?)物語だったし、当時の「常識」から考えると「過激な恋愛行動」をしていたわけで…彼を見てると「なんとなく、ホッとする」ところがあったと思うんですよ。

「12月の唯」では、メインメンバーの一人…というか「当事者」だったわけですが、「すくらっぷ…」になって「トーンダウン」したのは「物語に偏りが出ないように」という配慮もあったんじゃないか?と思うのですが。

「恋愛」に関しては「イチノ&理美ちゃん」が軸になって展開していた感じで、「その他のカップル」は後で晴ボンが言っていたように「二人はみんなの手本」という言葉からも窺えるところがあると思います。

「まさたか&唯ちゃん」の関係性は「遠距離ドロドロ熱愛」か「自然とフェード・アウト」か…何にせよ「少年誌」で扱いづらいテーゼになってしまう危険性があったんじゃないでしょうかね?。


ともあれ。

そんな「普通の中学生、戸沢正賢」が、その後どうなるか?には興味があったわけです。

もちろんこれは「私の妄想」ですから、実際には一人一人違う「その後」が存在するのでしょう。
怒られず、しらけられず、興味がわいた方は「全17話(!)」付き合って頂きたく思います。

どうか、よろしく!!

(るみくす)

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2008年4月15日 (火)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」

…電車はひたすら闇の中を走り続けている。

日はとっくに落ちてしまったが「何も見えない」のは、ここが「トンネル」の中だから。
真っ黒な壁と、時折の照明が窓をかすめて行く。

…青森を八時に出て、函館に着くのは十時近く。

「宿はとっておきましたから」…って事務所のジュンコちゃんは言ってたけど、今宵も一人でホテル泊り、か?。
…なんか、味気ないねぇ。
どうせなら飛行機便を取っておいてくれれば良いのに…。

…明日は函館(むこう)で、他の芸人さん達と合流。
いつもあまり変わらない面々だけど、それゆえに「気楽」だ。
「お仕事」が順調に進む…それが何よりも大事。

…さて、もう一眠りすっかな?。


「…まさたか君?」

…唯、か?…なんだ、見に来てくれたのか?。
会場なんかで声かけるからビックリしたよ…。
楽屋に訪ねて来れば良いのに…。

「…ごめんね…」

…ゴメン、か?…。
良いよ…仕方が無かった事じゃないか?。
会えなくて寂しかった…そりゃあキミだって同じ事じゃない?。
…もう、忘れた…忘れたんだよ…。

…言葉と裏腹に腕が彼女を掻き抱こうとする。
しかし、その手応えは無く、いつのまにか彼女の姿も消えていた。


「ゴツン!」と頭に衝撃。
あれっ?と思ってみると、相変わらず列車は闇の中。

夢、か?…しょうも無い夢を見たなぁ…。
頬杖の肘が外れて…同時に窓枠にゴン!だって!?。


「塩っぱいなぁ…」

と、思わず独り言。

…明日は北海道。
晴れてくれると良いなあ…。

<つづく>


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2008年4月16日 (水)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」2

<つづき>

「六月の北海道に梅雨は無い!」
…って言ったの、誰?。

…上陸してから、ずっと「雨!」。
「野外」の舞台が多いのが、俺らの営業の特徴だから、客足は減るわ、ずぶ濡れになるわで散々だ!。
…あーもう、今回の巡業、さっさと終わんねえかな?。


雨、北海道…唯(ゆい)…。

…昔、彼女が引越していった、あの夜の事。
…忘れる事が出来ない…なぁ。

傘を俺に預けて、師走の雨の中を駆けていった…あの後姿。
跳ね上げた水の音まで、思い出せるくらいに…。

…彼女も、同じだったのか、な?。
もし、同じだったとして「いつまで」憶えていてくれたのかな?。


「出番だよ~」「…うーす!!」

ステージに上がる番が来た。
うし!今日もしっかり「コケまくって」やるぞ!。
客に欠伸なんかさせやしないぜ!。


俺は「道化(ぴえろ)」。

傷つくたびに会場に笑いを振りまくのが、俺の仕事。

身体の痣(あざ)こそ、俺の証し。
滑って、コケて…笑われて。
…そうやって、生きてきたんだ。


…あれは何年前だったかな?。
大学を中退して…旅に出た。

…いや「正確に言えば」あれは「旅」じゃ無い。
人生を賭けて「出ていったんだ」…帰る気持ちなんか、無かった。

…「好きな女」のそばに居たかったんだ。
ずっと、ずっと…寄りそうつもりで…そのつもりでの「出立(たびだち)」だったんだ。

…俺は必死になってバイトして貯めた「百万円」を元手に、札幌に移り住むつもりだった。

俺の「彼女」…「石黒 唯」。
…アイツのそばに居たかった…ずっと…。


…何でだろうなぁ?。

ここのところ、昔のことばっかり、やたらと思い出すよ。


…お客さん!。

そうだ!…もっと…もっと笑ってくれよ!!。

<つづく>

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2008年4月17日 (木)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」3

<つづき>

…青空。

北海道でも、夏はやっぱり「暑い!」。
今日で今回の「北海道巡業」は終了だ!。
明日は内地に帰れるベさ…あれ?言葉がヘンだな…。

…ちょうど、こんな時期だったな?。

「唯」を追って、北海道に上陸した。
…あの時は未だ「連絡船」が走っていた頃だったな。
デッキから陸地が大きくなっていくのを、ドキドキしながら見ていたっけ。


「待ち合わせ」の喫茶店に直行したら…彼女の隣に「誰か」が居やがって、さ。

…暫く「三人」で黙ったまんまで…俺、頭、真っ白けになってて…。
「…戸沢さん、ですね?…彼女から話しは聞いてます」って。

話し!?…話って、なんだよ?…そもそも「お前」は?…って。
怒りとも、驚きとも言いようが無い気持ち…でも、なんとなく「じわじわ」と感じる「敗北感」と、そして「挫折感」…。

…あの時は無性に、その場から逃げ出したいような気分だった。

…彼女?。
…彼女はずっと下を向いたまんまだったな。
言いたいことは、いっぱい有ったんだろうけどね。


「彼」から馴れ初めとか、そういうのを聞いたような気はしてるんだけど、みんな忘れた。
目の前が「真っ黒」になって、彼女の姿しか目に入らないんだよ。
…狭い視界の中で、彼女が黙ったまんまで…俯いたまんまで泣いているんだ…。

…あんとき俺「わかったよ!もう、良いよ!!」って言って、店を飛び出しちゃったんだよな。

…悔しくて…彼女から何も聞かされなかったことも悔しいけど、それよりも「自分の馬鹿さ加減」に腹立って…悔しくて仕方なかったんだ。


どこをどうやって歩いたか憶えてないけど、街中の公園でそのまま朝を迎えてた。
「これから、どうしようか?」って思ったけど、そのまま大学に戻るのはなんとなくイヤだった。
だから「北海道中、旅しよう!」って決めて…宛ても無く列車に乗り込んだ。

…ただブラブラしてただけの毎日だから、当然資金は尽きてきて。
「こりゃ、流石に帰るしかないか?」って思い始めた頃だった。
ある町の「お祭り」で…「大道芸フェスティバル」みたいな催しをやっていたんだ。

俺は引き寄せられるように、会場に向かって、ステージの前に座ったんだ。

<つづく>

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2008年4月18日 (金)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」4

<つづき>

ジャグリング、猿回し…いろいろな芸人達が来ていたけど、その中に「ピエロ」の芸も有った。

「誰か、お客さんの中で挑戦する人いませんか~?」
司会者が観客に呼びかけて…でも、誰も手を上げないのね。
で、俺が司会者を見てたら…

「そこの!…そこの眼鏡の彼!!…ちょーっとこっち来て!」
…って言われて、そのままステージに。

「じゃ、この段を上って…そうそう、一番上まで…」
…階段の横には例の「玉」があって「こいつに乗れ!」と言う。
「両方で支えるから、大丈夫!」なんて言葉に乗せられて、なかば安心して玉の上に乗った。

「いや…大丈夫じゃないぞ、これは…」

思いがけず「高い」…ステージの上からだから、観客席を見下ろすと本当に恐いくらい、高い。
もちろん、両脇には人がいて支えてくれるんだが、それでも恐い。

と…ふいに、左手の人が手を離した。

おわっ、とよろめきそうになるが、すぐに手を掴んで引き戻される。
その直後、今度は右手が手を離して…「いったりきたり」を繰り返した。

こっちは顔面蒼白だ!…心臓バクバクだ!。
それを見て、他の観客がゲラゲラ笑っている。
…俺はなんだか、無性に腹が立ってきた。


「ハイッ!どーもありがとうございましたー!!」
と言って、俺を席に戻そうとする司会者に向かって、

「…もう一度、演る…今度は一人で、演るっ!!」
…俺はそう言って、啖呵を切った。


なんだか馬鹿にされたような気持ちが消えない。
ダシにされた…そんな屈辱感が消えない。
なんでも良い…なんでも良いから、この場で「一発」かましてやる!って、そう思ったんだな。

そして俺は「あれをやってやる!」って言って「綱渡り」のセットを指差した。


司会者は「トラブル」に慌てていた。
ちらっ、とステージ下の責任者らしき男に目を向ける。

すると男は
「…いいぞ!…あんちゃん「気ィ引き締めて」やってみろ!!」と俺に向けて怒鳴った。

「この男」こそ、現在の事務所の「社長」だった、んだが…。

<つづく>


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2008年4月19日 (土)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」5

<つづき>

覚悟は決めた。

「三メートル」は無いが、大人の背丈を軽く上回る高さだ。
下には事故防止の為「マット」を臨時に敷いてもらった。

突然の「無茶」を聞いてくれたことが嬉しかった。
絶対に「ケツまくって」つまらない結果にはしない…死んでもしないぞ!と気合を入れた。


一発目。
いきなりの落下。
ドスン!とマットに落ちる。
観客のざわめきと、立ちあがったときの「呆れ声」。
「止めた方がいいぞー!」と声がかかるが、死んでも止めるか!!。

二発目。
真中までは「勢い」で行った。
その後、思いきって落下。
マットから埃が舞いあがる。

三発目。
バランス用の「棒」を持ってきてもらう。
これだけでも随分と安定した。

主催者は途中で強引に「ストップ」させるつもりだったようだが「社長」が制したらしい。

「最後までやらせて…責任はとりますから」って、頭を下げてくれたようだった。
…後で事務所の人に聞いたんだけどね。

四、五と駄目で、六発目。
「コツ」はなんとか掴んだ。
…下を向かない、胸を張る事、視線を遠くに置くこと…。
初めて「渡れるかも?」と思った。

…もう、身体中が痛かった。
痣もどれくらい出来たんだろう?。

空中を散歩している感じだった。
何も無いところに「道」が出来てきて、その上を歩いている感じ。
…向こう側で誰かが「頑張れ!」「もう少し!」って声かけてくれる。
あとはザワザワ、って…なんだかわからない「音」しか聞こえない。

まるで「夢の中」みたいな時間だった。

無事渡り終えると、誰かが俺の「片手」を掴んで、高々と上に上げてくれた。
よく聞こえなかった耳も、霧が晴れたみたいに聞こえるようになって…「ザワザワ」の音が、実は「観客の声援」だということがわかった。
…それくらい、集中していたんだなぁ。

安心すると同時に「どっ」と涙があふれ出てきた。
達成感や安堵感…「生きている」という実感…。
それらが「ないまぜ」になって、なんか「感動」した…って感じかな?。

ガクガクと足が震えていたけど、支えてもらいながら下りるとさ…これがビックリで「おひねり」が飛んできたんだ!。
チャリン…チャリン…と音を立てて…ひとつ、ふたつ、と舞台に投げられる「おひねり」。

「アンタの頑張りさ!遠慮無く取れよ!!」って、社長も言ってくれた。
なんだか嬉しくて…涙で顔をグチャグチャにしながら、おひねりを拾ったよ。


それ以来さ…。

俺は北海道から引き上げると、学校を辞めた。
そして「芸人になるために」仙台に有る、社長の事務所の門を叩いたんだ。

俺が目指したのは「道化師」。
修行をし、デビューしてから早三年。

…今までなんとかやってきたけど、最近はなんとなく「マンネリ」な感じがする。
技術が上がって、客の「受け」も充分計算出来る様になった。

やりたいことも、課題もある。
…じゃあ、この「マンネリ」感は一体なんなのだろう?。

<つづく>

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2008年4月21日 (月)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」6

<つづき>

…今日は「とんでもない」偶然に出くわした。

営業で東京に行き、コケて足をしたたか打った。
普段ならば「ツバつければ治るさ!」って放っておけば良いんだけど、今回は腫れあがって、自分じゃどうにもならない。
「健康保険」は商売柄いつでも持っているから、止む無く近所の病院に行くことにした。


教えてもらった病院に向かうと、そこは結構大きな場所だった。
いわゆる「総合病院」で…なんとなく威圧的な感じだ。

「…戸沢さん…戸沢正賢さん」
整形外来で待っていると、お呼びの声がかかった。

「…?…なんか…」
「聞き覚えのある」声…。
それもなんて言ったら良いのか…「身体が反応する」って感じで、どことなく「恐怖感」に似たものも感じる。

「はい…戸沢ですが」と、おずおずとドアを開けると…
そこに「居た」のは原始人…「ナース服」着た…原始人!?。


「暫くじゃないのよ?」「はぁ?」
「はぁ?じゃないのよね…みんな、心配していたみたいだぞ?」
「…心配?」

「「地元の情報」はみな、私のもとに集まる事になってんのよ!」
そういうと「女原始人」は、顔をそばに寄せながら、こう言った。
「…ふられたみたいじゃないのよぉ?」

ギクリ、とした。

冷や汗は流れるは、足はズキズキするわで、心臓もバクバクだ。
…もう「原始人」なんてトボケちゃいられないな…。


「…マッキー…なんで、こんなところにいるの!?」
「…何でって、私は看護婦だからに決まってるでしょ?」
「…看護婦」

…なんだ?「マンモス」にやられた患者の骨折でも治すのか?。
「マッキー=看護婦」って構図が、どうしても納得できない。


「戸沢さん!…どうぞ!」って、診察室から声がかかった。
お医者さんの方は、結構イライラしていたらしい。

「ね、アンタ今日は暇なんでしょ?」
…確かに、売れない芸人に暇はつきものだ。
「それじゃあさ、診察終わったら、少し話しない?」
…彼女の瞳が輝いていた。

まるで「あの頃」の少女の面影そのままに。


<つづく>

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2008年4月22日 (火)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」7

<つづき>

ばたばたと、洗濯物が風になびく。
遠くには富士山…そして、どこの山々なのか、青い峰が連なっているのが見えた。

「ここに来るとさ…小諸のこと、なんとなく思い出せるんだよね」
「小諸のこと、か…」

…そう言えば、最近帰っていないなぁ。
特別帰る理由が見当たらない、っていうのもあるけど…。


「私…彼と一緒にこっちに来たから…」
…遠い目をするようにして、彼女は続けた。
「彼が「帰りたい」って言わない限り…私も帰らないんだ」

「彼?…彼ってひょっとして晴ボンか!?」
「…?。…他に誰かいるって言うの?」

…いや、確かにごもっともです…ハイ。

「…で、なんで毛皮じゃなくて「ナース服」着てるかなぁ?」
「…ここから落ちてみるか!?」

…いえ!!そうしたら今度は医者どころではありませんので!。

「…そばに居たかった…それだけのことよ」
…そう言って彼女は、ニッコリと笑った。
ちょっとだけ胸が「ドキッ」とした。


「晴ボンは?」
「…さあ?…どこをさまよっているんでしょうね?」
「…ハア?」
「正直、わかんないんだもん…しょうがないよね?」

「…そんなんで平気なの!?…浮気とかしてるかもしれないだろ?」

…自分で言ってから「しまった!」と思った。
自分の「素」が出たな、と思った…しくじった!!。

「平気よ…もう、そんなの味わい尽くしてきたんだから」
彼女は再び微笑むと、続けて言った。

「寂しくないわけじゃない…でも、帰ってきたときに彼は必ず「成長」しているの」
「一回りも、二回りも大きくなって帰ってくる…その彼が私を愛してくれる…その喜びに比べたら、ね?」

「…嫉妬も、寂しさも耐えていけるから平気よ!」
…そう、彼女は言った。
俺は、その横顔が例えようも無く眩しくて、ちょっと「アイツ」に嫉妬をした。

眼鏡をずり上げると俺は
「夕日が…眩しいよな」と、呟いて見せた。
それが精一杯の、そのときの俺の台詞だったんだ。

<つづく>

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2008年4月23日 (水)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」8

<つづき>

「…そうだ!…アンタさっき「玉に乗って落っこちた」って言ってたよね?」
「悪いか?」「…人間、曲がったなー!?」
…えーどうせ、私はひねくれもんですよ!。

「…昔はもうちょっと、素直だったんだがなー?」
「…いろいろあったもんで」「…女にもふられたし?」
…そーいう…他人の傷口に塩を塗りこむかなぁ?、この看護婦は!!。


「ま、そんなことはいいや…要するに曲芸師なんだろ?」
「…良くないが…まぁ、そんなもんだ」
「だったら丁度良いや…あわせたい人がいるんだ」
「会わせたい、人?」「面白いぞ!」
…そういうと彼女は、さっさと階段を降りていった。


そこは「小児病棟」だった。

しかし、ここでは「子供達の元気な声」は、ほとんど聞こえては来ない。
かわりに何処かで、何かの機械が定期的に動く音が聞こえる。

心電図の機械が発する音や、エアバルブが開閉するときのような音も聞こえる。
とても息苦しく、一刻も早く、ここから出たい気分だった。
そこを彼女は、スタスタと早足で歩いていく。

廊下の向こう側から声がする。

それは大人の…男性の、大きな張りのある声だった。
その声が聞こえてくる病室の前で彼女は立ち止まり、「ここよ」と指を指した。

病室の中には、四人の子供と、そして「大柄な男」が居た。

四人の子供は、皆どこと無くやつれていて、顔色も悪かった。
「大柄な男」の方は、と言えば「がっちりとした体躯」の、骨太な感じがする男だった。

「紅白のストライプのTシャツ」に「ベルボトムのジーンズ」を履き、靴は黄色で異様に大きい。
あの「ハンバーグ屋さん」の「マスコット・キャラ」みたいな風体をしている。


「マッキー!?」「おねえちゃん!!」
口々に子供達が叫ぶ。

「満面の笑顔」だったが、なんともその「細った姿」がやるせない。
胸に鉛が積め込まれたように感じ、俺は思わず目を伏せていた。

「誰?その眼鏡の人」「マッキーのこいびと?」
「…恋人じゃないけどねぇ…私の同級生なんだよ」
「どうきゅうせい?」
「…お友達、でも良いよ?…カズトとナナちゃんみたいなもんかな?」
「…そうなんだぁ?」

子供達と彼女の会話を、大柄な男は笑顔で黙って見ていた…ようだ。

「ようだ」というのは、彼が「メーキャップ」をしていたからで…つまり「同業者」だったから。
化粧の向こう側の「素顔」は理解らない…「道化」というのは、そういうもんだ。

俺が彼を注視して見ていると…
「…アンタ、同業者だね?」
男は俺に近づいて言った。

なぜわかる?と問う間も無く、男は、
「耳の後ろ、ドウランが残ってるぜ」と言う。
…成程、確かに「同業さん」だな。


「俺は厩橋(まやはし)…厩橋達治…アンタは?」
「戸沢正賢、って言います」
…男は俺よりも十以上年上らしく、近づいて良く見ると、顎の髭にも白いものが見受けられる。

「…ねぇ、まーちゃん。続きやってよ!」
子供の声がけに応えるように「よっしゃぁ!」と彼は言うと、足元のバックから「紐と独楽」を出してきた。

「…ジャグラー、なのか?」
俺は彼の芸を、じっくりと見学させてもらうことにした。

<つづく>


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2008年4月24日 (木)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」9

<つづき>

お世辞にも、彼の「芸」は巧いとは言えなかった。

放り投げた独楽(コマ)を受け止めそこね、床に落っことす。
そのたびに大きな音が響き、俺は、
「平気かなぁ、ここ病院でしょ?」
と、心配になったが、意に反し「誰も注意にやってこない」のが不思議だった。

「まーちゃん、これで三回目だよ?」と、男の子が言う。
「下手だよねぇー?まーちゃん?」と、女の子が同調する。
厩橋さんはエヘヘ、と声に出して笑ってから、再び独楽を紐にセットした。


「どう?」とマッキーが俺に聞いた。
「下手だな…ハッキリ言えば」「あれでプロなら…仕事は無いぞ」
「あれじゃぁ、無理だな」「無理?」

…マッキーは俺に「彼を使ってくれないか?」と思い、芸を見せにここまで連れてきたんだろう。
しかし、プロはプロ…年齢もあるし、将来を考えれば「道」は無い…。

「無理とは?」「…だから、使えないって!」
…彼女は眉間にしわを寄せて暫く考えてから「あはは!」と笑った。

「…そうじゃないの…アンタが「どう思ったか」を聞きたかっただけなのよ!」
「どう、思ったか?」「…そう!」

どう思ったか…単純に「下手」とか、それくらいしか思い浮かばない。
一生懸命さは買えるけど、それくらいかな?、と言うと、彼女は「わかってないなぁ」と言わんばかりに首を横に振った。

「アンタが「ココ」にどう感じたか?って聞いてんのよ!」
彼女は自分の胸を親指で指すと、言った。
「オツムの中の事を聞いてるんじゃないの!…「心がどう感じたか」を聞きたかったのよ!」


俺は唸った。
なんとも「答え」が出てこなかったからだ。

…確かに、彼は子供に「受けてる」。
それは理解できる。
技術の未熟も、ある意味「好感」が持てるだろう。
だが、そこから先が出てこない。

「ま、良いわ!」彼女はちょっと怒ったような口調で言った。

「また、こっちに来たら顔を出すのよ?」
「…ナンデ?」「なんでも、良いから!!」

…怒っている。

本当に、怒っている…浅間の噴火のような、あの「現象」が起きる!。
俺は足の痛みを忘れ「サヨナラ~!」と病室を飛び出した。

<つづく>

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2008年4月25日 (金)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」10

<つづき>

「病院での再会」から数週間後、俺は東京行きの列車に乗っていた。
あの「厩橋さん」と、もう一度会わなければいけなくなったからだ。

病院を訪ね「マッキー」を呼び出してもらう。

「えーと、ここの看護婦さんで「迎麻紀」さんは…」
「迎さん?…えーと、彼女は今日は非番ね」

…?…なんか、対応がすごく早いなぁ?。
結構大きな病院なのに。

こちらの目が点になっているのを見てか、窓口の女性は続けてこう言った。

「…彼女の動向はね、すぐに病院中に伝わるのよ!」
「休みとか、今日は何をしでかしたか、とか…彼女は病院の人気者ですから
「人気者?」

…窓口の彼女は、マッキーが病院に来てからの「いろいろな顛末」について話して聞かせてくれた。
彼女の動向は、院長先生が「毎日、私に報告するように!」との厳令が出ているほどなのだという。

「…ひょっとして、あなた…彼女の同級生の彼氏、ってヤツ?」
「同級生ではありますが、断じて彼氏などではありませぬ!!」
「あら?そう…そうよねぇ、いくらなんでも「画家」さんには見えないもんね?」

「画家?」…そうか「晴ボン」のこと言ってるのか。

「うらやましいわよねぇ…」窓口の彼女は言う。
「「画家の彼氏」がですか?」
俺は少し「ムッ」としながら
「…画家なんかよりも、コメディアンがそばに居たほうが刺激的だぞ?」
…などと、ひとり思った。

「違うわよ…逆よ、逆」
「逆って…おねえさん、そういう趣味だったんですか?」
…人は見かけによらないものだな、と、マジマジと彼女を見ていると、

「…私は、とっても「ノーマル」なの!!…そうじゃなくて!」
「…彼女を恋人に出来る男、って…きっとすごく底の深いものを持っている人なんだ、と思うのよ」

正直その「一言」は、あまり聞きたくなかった。
アイツ…「柏木晴」という男は、確かに底が知れないところがある。

自分の「夢」を曲げずに突き進むことは、言葉で言うほど簡単なことじゃない。
同じ「男」として相対するとき、それを「実現」している相手には「畏怖」と、それと同量の「嫉妬心」が生まれる。
「雄の本能」が、自分に「敗北」を自動的に教えてしまうのだ。
…これは女性にはわかりづらいかもしれないが。

「んんまぁ…底が深いっていうか「丈が低い」っていうか…」
「…身長、低いの?」
「昔は…いや、多分今でも…」

…そう「しどろもどろ」で言うと、彼女は「へえ?」と俺を横目で見ながら、
「あっはぁ?そう、おまけに「可愛い」んだね?」と仰った。

…正直「カチン!」と頭の奥のほうで音が聞こえたが、
「まぁ、そんなところですね」と「作り笑顔全開」で答えてあげた。


しかし、彼女がいないのじゃ「厩橋さん」には会えないかなぁ?。

…しょうがないから、マッキーへの伝言を頼んで病院を後にしようか?と思い立ったとき、廊下の向こう側に彼らしい人影を発見した。

「窓口の彼女」に短く礼を言うと、俺は駆け出した。
背中に追いついて「厩橋さん?」と声をかけると、彼は最初驚いたようにしていたが
「あ、どうも」と笑顔で返事を返してくれた。

「えと、確か迎さんの…」「そうです…戸沢です」
…彼は俺のことを記憶していてくれた。

「今日は?」「…実は、あなたと少し話がしたくて」
「…話し?」「…ま、いろいろあって長くなりそうなんですが」

俺がそう言うと、彼は
「…じゃ、とりあえずこれから病室に行かないといけないので、それからでも良いですか?」
と言ってくれた。

「これから、また芸を披露に行くんですか?」
「毎日の日課なんでね」
「…できれば、お邪魔したいのですが…どうでしょうか?」
そういうと彼は、ふたつ返事で許可をしてくれた。

彼の「大きな背中」を見つめながら、病院を歩いた。
この人が俺に「何か」を教えてくれるんだろうか?。

<つづく>

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2008年4月26日 (土)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」11

<つづき>

…長い廊下が、無機質な靴音を響かせている。
前もここを歩いたが、やはりどうしても好きになれない場所だ。
廊下を歩きながら、俺は「あれから」のことを思い起こしていた。


仙台に戻り、どうしようもない足を恨めしく思いながら、俺は忸怩とした毎日を送っていた。
日課は「午前中からパチンコ→夜まで暇潰して事務所に顔出し」と言うパターンだった。

「オハヨ!まーくん!」「…オハヨっす」
…事務のジュンコちゃんが声をかけてくる。

「仕事あるけど、どう?」「…まだ無理みたいっす」
そう?というと、彼女はお茶を出しに備え付けのキッチンに向かった。
「社長、今さっき駅に着いたって」
そう言いながら茶碗をふたつ、お盆に載せて来る。

「…何年目だっけ?」彼女が言う。
「今年で5年?…いや、もっとかな?」
「…ふうん…頑張るよね」
「ま、確かに芽は出ないけどさ…」

…彼女は割と遠慮が無い物言いをすることがある。
優しい人だが、これには最初戸惑った…今はすっかり慣れてしまったが。

「あら!嫌だわぁ…そんな意味で言ったんじゃないのよ
大きく手を振って、彼女は笑う。
…屈託の無い笑顔…三つ年上の彼女は、笑うと横顔がなんとなく「唯」に似ていた。
それもあって、長居を決めこんでいた節もあるのかもしれない。


「そうじゃないの…頑張ってるね、って感心していたんだよ」
「ホント?」「ホントよ!」
…今更ながら嬉しい気持ちになって、俺はズズッ、とお茶を啜った。

彼女は暫く俺の顔を眺めているふうだったが、少し顔を曇らせるようにしてから、

「実は、この前ね…社長がこんな事言ってたのよ!」と切り出した。
「話しの流れが…ひょっとして?」
と、俺の頭の中には「解雇」の二文字が浮かんできた。

「社長ね…「まー君」はエライ!…アイツ良く転ぶから、エライ!って言ってたのよ」
…俺は思わず、手に持った茶碗を床に落っことしそうになった。

「転ぶから…偉い?」「そう!」


…なんでやねん?。
…確かにコケるのは、人一倍巧いという自負はある。
人生でもコケまくってきた俺だから、そりゃ、うまいだろうよ。

「それで?」「…それだけ」
なんのこっちゃあ?…社長もなぁ、なんか良くわからん人だよなぁ。


…ドアの向こうで、妙にカン高い鼻歌が聞こえる。
「社長」が帰ってきたのだ。

「お!マー君よ、足の具合はどう?」「…まだちょっと」

ふんふん、と鼻歌とも、返事ともつかない言葉を発しながら、社長はテーブルを挟んで、俺の前に座った。
ジュンコちゃんが、すかさずお茶をいれて社長の前に置いた。

怪我の具合の話はそれきりで、社長は
「まー君?今日のイベントはどうだった?」
「まー君?デジパチであのさぁ…」
「ねぇ、まー君?攻略法って本当にあると思う?」
…社長は無類の「パチンコ好き」だ。
それにかなりの「おしゃべり」ときてるから、俺の顔を見ると「そっち」の話しかしないんだ。

「社長…俺25才なんすよ!…その「まー君」て言うの…」

「…止めてください」と、社長に言いかけたとき…ふいに「そう呼ばれていた」人の顔が頭に浮かんだ。
俺は一瞬、言葉を失った。

「…まー君?」「…まーちゃん?」
そうだ…子供達に「まーちゃん」と言われていたあの人…「ピエロの厩橋さん」の事を、俺はふいに思い出した。

「どした?まー君?」「…社長…実はこんな事があったんですよ」
何故か知らないが、急に俺は社長に「東京の病院での出来事」を話したくなっていた。
俺は事の顛末を、手短ではあるが社長に報告した。


…次ぐ日の事。

事務所に顔を出した俺は社長に呼ばれ、封筒を1通渡された。
その中には「東京行きの新幹線のキップ」往復分が入っていた。

「ステージは無理でも、散歩くらいは出来るだろ?」
そう社長は言った。

「もう一度、あの病院へ行って来い…これは社長命令だ」
「…そして、再会(あ)って来るんだ…その「厩橋さん」に!」

いつにも無く、真剣な社長の姿がそこには有った。
「北海道以来だなぁ」と俺は思い起こし、そして何故か胸を熱くしていた。

<つづく>


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2008年4月27日 (日)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」12

<つづき>

厩橋さんは、途中のトイレの中でメイクを済ませる。

例の「巨大な靴」を履き、ストライプの服を着て、ズボンを履く。
バックの中からメーキャップ道具を出し、ささっ、と手早く顔を塗る。

「手早いね?」「…うん、毎日だからさ」
そう言うと「良し!」と気合を入れるようにして、彼は病室に向かった。


俺は彼の背中につくようにしながら…彼の後に続いた。
彼はわざと「ゆっくりめ」にドアを開ける。
病室の「白い光」が、暗い廊下へと漏れてきた。

「オ・ハ・ヨ?」「…まーちゃん!?」
子供達の弾んだ声がして、嬌声があがった。
「今日は来てくれるよね?って、けいちゃんと話してたんだよ?」
…彼は答えない…ただ、大きく首を縦に振ってニッコリと笑うだけだ。

「…じゃ、今日は風船で遊ぼうか?」
そういうと彼は黒い「ドクターバッグ」みたいな鞄から、色とりどりの風船を取り出した。
それを「ぷう」と膨らませると、器用に捻りながら形を作っていった。

「ほら?ワンチャンだ!」「…キリンさんじゃ無いの?」

…ちょっとだけ首の長い「黄色の犬」が出来あがった。
子供達の「疑問」には答えずに、彼は黙って次の風船を膨らませて、捻り始めた。

不思議だったのは、彼が子供達に返事をしないのに、子供達が一向に怒らないことだ。

子供達は真剣になって、彼の手先を見詰めている。
彼はその視線の中、笑顔を絶やさずに風船と格闘し続けていた。
…不思議な「空気の流れ」が、病室に充満しているのを、俺は感じていた。


「ね?お兄ちゃん?」
三つ編みの髪の女の子が、俺に声をかける。
「お兄ちゃんは、何が出来るの?」

…そう言われて、俺はたじろいだ。

「何が出来る…って…そうだなぁ、玉乗りとか、綱渡りとか…」
…ここじゃ出来ないものばかりだね?と言うと、女の子はこう言った。

「見たいけど…でも、やっぱり見られないもんね!」
…そう女の子は「満面の笑顔」で俺に言った。
俺は「氷の塊」を胃袋に突っ込まれたような気分になった。

「…いやぁ、出来るのさ…このお兄ちゃんはね、俺の弟子なんだから!」

厩橋さんは、俺を見て「にやっ」としながら言った。
「出来るよ、ね?」と、念を押すようにしながら。


「バルーンアート」みたいな「小技」を、俺はした事が無い。
「玉乗り」や「綱渡り」は、技術もあるが、まずは「根性」だ。
「やってやる精神」があれば、一流はともかくとして、どうにか「さまになる程度」には成れる。

「大丈夫、平気だよ…恐がらずに、思い切り良く、キュッと捻れば良いんだ

…そうは言っても、これはこれで恐いものだ。
おずおずとやったら、案の定「パン!」と風船は割れてしまった。
病室には「一瞬の」静寂ができ、そしてその直後、元気で大きな「笑い声」が響いた。

3、4、5…やっと6個目で「くびれ」を作るのに成功!。
「コツを覚えりゃあね…ちょちょいの、ちょい…さ!」

「ホラ!出来たぞ!」「…お馬さん!」「…いや、犬なんだが」

我が「黒い犬」は、手汗がついてベタベタだ。

俺は厩橋さんに「アテ(ウマ)に使いましたね」と小さく耳打ちした。
厩橋さんは、子供達に接するときのように問いには答えず、笑いながら首を軽く横に振った。


どれくらいの時間、病室に居たんだろう?。

白い壁は薄く朱に染まり、夕暮れを思わせている。
「ご飯だよー」と元気な声で看護婦さんが入ってきて、我々に気付いて少しだけビックリしていた。

「じゃ、またね!」と厩橋さんが子供等に言う。
またね!、と子供達も返事を返す。
俺も「またな!」と、言いながら病室を出ようとした…そのときだった。
「三つ編みの子」が、おずおずと両手を差し出して「…わんちゃん」と俺に向かって言った。

「あ、これのことか?」
俺は、自分が手に持っていた「風船の犬」を、彼女に差し出した。
「…ありがとう」と彼女は言った。

「大事にしろよ…俺の初めての作品なんだからさ?」
そう言うと、彼女は少し寂しそうな笑顔をして、こう言った。

「うん…りょうくんにね「あのおじちゃんが作ったんだよ」って、言うんだ」
「おじちゃん…「また来るさ!」って、りょうちゃんが言ってたから…」
「寝たときだけ…りょうちゃんとお話が出来るの…だから、これを持って寝るの…」

…彼女の話しが、俺には俄かには理解できなかった。

困惑している俺に厩橋さんが
「りょうくんは、君が来てからほど無くして亡くなったんだよ…」
と耳打ちした。

食事を運んできた看護婦さんが泣いていた。
子供達は、不思議そうな顔をして、彼女の事を見ていた。

俺は激しく動揺した。
身体がガタガタと震える事を止める事が出来ない。
あとから、あとから零れてくる涙を、拭う手が激しく震えている。
カチカチと、歯噛みの音が頭の中まで響いてきた。

そのとき…俺は必死になって、厩橋さんの顔を見ようとしていた。
彼…厩橋さんは「笑顔」だった。
とてもとても静かな…眼差しをしながら、彼は子供達の姿を見つめ続けていた。
その目に「涙」は無かった。

<つづく>


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2008年4月28日 (月)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」13

<つづき>

「激情」は長くは続かず、潮が引くように速やかに去っていった。
俺達は子供等に再び「またね」と言うと、病室のドアを開けた。


長い廊下の途中には「休憩室」が有った。

厩橋さんは俺に「タバコを吸う真似」をする。
…そういえば、無性にタバコが吸いたいな、と俺は気付いた。

黒い、傷んだような長椅子に「どっか」と座ると、急速に「疲れ」が襲ってきた。
タバコの煙を深く吸いこむと、天井が回っているように見えた。

「…どうだったね?」
メイクも落とさないままの姿で、厩橋さんは『LARK』を吸っている。
「…どうだった、って…」

正直、いろんな事がいっぺんに起きたみたいで、頭が混乱している。
「なんか…凄えな、って感じで…そのくらいしか」
「そのくらい、か?」
彼は灰皿にタバコを擦りつけると、最後の煙を吐き出しながら言った。


「あの子達は、確かに「この世に居る時間」は限られている…我々の「十分の一」も生きられないかも知れん」
「しかしそれを「可愛そう」と思うほど…我々は「キチンと生きている」のかな?」

彼はギシッ、と音を立てさせて、長椅子の背に深く潜り込むように座った。

「俺は…「ぜんぜんだった」よ…」
彼は天井を見つめ、二本目のタバコに火を点けた。


「…ある会社のさ、営業マンだったんだよ、俺…」
「稼いだぜ…人の何倍もね…そして同じくらいに遊びもした」

「ある朝、身体が鉛みたく重たくて…病院に行ったら、即入院…肝硬変になりかかってた」
「会社に椅子を残す事も出来たが…なんとなく、かな?…」
「辞めたよ…自分から」

厩橋さんは、そう言いながらまた、タバコを深く吸った。

<つづく>

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2008年4月29日 (火)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」14

<つづき>

「ちょうどここらへん…いや、もっと向こうか?」
彼はタバコを持った手で、東側の廊下を指差しながら言った。

「元気になると…人間現金なもので、いろんなものに「飽き」がくるんだね」
…食事や、看護婦さんとの「雑談」にも嫌気がさして来る頃、彼は「病院探検」を始めた。

「そこで…「会っちまった」んだよなぁ」
彼はもう一度、深く煙草を吸うと「ギュッ」と強く灰皿に押しつけた。


「色が白い…蒼白で…痩せっぽちで背丈の小さな男の子だった」
「こけた顔に目だけが大きくて…俺は反射的に、その子から目をそらしたんだ」

彼の眉間に深く皺が走る。
多分「軽い過去」の話しでは無いのだろう。
俺は「ギュッ」と拳を握り締め、続きを待った。

「その子は…つかつかと歩み寄ってくると、俺の「ズボン」を両手で掴んだ」
「そしてこう言ったんだよ…一言だけ「…遊ぼうよ」と…」

「痩せこけてはいたけど…キラキラと輝く、黒くてきれいな瞳をしていた子だった」
「入院生活にも飽きが来ていたし…俺たちは一緒になって遊んだんだよ」

ボール投げをしたり、紙飛行機を折って窓から飛ばしたり…
「看護婦さんに発見されぬように!」と内緒で遊んだ日々は「少年時代」のようで、すこぶる楽しかった、と言う。
…そして「あっという間に」厩橋さんは「退院の日」を迎えた。

「「アイツ」は、急な熱を出して病室で寝ていた…だから「サヨナラ」は言わなかったんだ」
「…いや…多分…「あのとき」の俺は「自分一人が出ていく」事を気まずく思っていたんだろう」
「「今度お見舞いに来れば良いや」って…そのまま退院した」

「結局…お見舞いに行けたのは退院から3日後の事だったよ…」

それから暫くの間、厩橋さんは下を向いたままだった。
そして何かを思いきるように顔を上げ、再び俺に話し始めた。


「3日後の午後だった」
「…その男の子は…冷たくなって霊安室で眠っていたよ」
「…何も変わりがない…すぐに起きだして「おはよう!」って言ってくれる…そんな感じにしか見えなかった」
「俺は…とりかえしがつかない事をしたと…そのとき初めて理解(わか)ったよ

彼は細かく震える手で、三本目のタバコに火を点ける。
再び深く煙を吸いこむと、彼は溜息と共にそれを吐き出した。


「それで…そう、それから暫くは郷里(さと)に帰って養生生活に入ったんだ」
「東京(ここ)に嫌気が差してしまった、というのもあったし…何よりも思い出す事が辛かったから」

…厩橋さんは、とんとん、と灰皿を叩くように灰を落とした。
何かを思い巡らすように下を向いたままだったが、再び顔を上げたときの彼の顔には「苦渋」の影は無くなっていた。

彼の目には「輝き」が戻っていた。

<つづく>

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2008年4月30日 (水)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」15

<つづき>

「それから」のことを、厩橋さんは語り始めた。

郷里に帰り、再就職したこと。
生活は順調で、可も無く不可も無く、快適であったこと。
…ただ「ひとつだけ」の事を除けば。

「子供の顔を見るたびに「あの子」のことを思い出すんだ…」
「…あの子の姿を「だぶらせながら」見てしまうんだ…そんなに動くなよ…身体に悪いぞ?なんてな…」

そう言うと、彼は苦笑しながら
「だからまた、仕事に逃げたんだ」

まだ完全でない身体に、アルコールを再び注ぎ込んだ。
そして…再入院。


「病院のベットの上から天井を見てたら…俺には「空」が見えた気がしたんだよ」
「空?」「そう…あの青い「空」が」

「見たろ?…あの…真っ白な空間…」
「病室…ですか?」「うん…」
「たったひとつの「小さな窓」…あれが、あの子たちの「外界(せかい)」なんだ」

「だから…見せたかった…「丸い大きな空」…本当の「空」ってやつを」

…俺はそのとき、北海道のあの果てしない地平を思い出していた。


「ここの子供達はおそらく…生涯、青空の下を歩くことは出来ないだろう」
「どうしたら?って、俺は懸命に考えてみた…アイツ達が「本物の空」を見るには?ってね」

…病院の屋上で、寝転がりながら考えていたとき、彼は唐突に答えを悟る。

「だったら…「俺が空になれば良いじゃん!」って」
「お日様を浴びるように…その「匂い」を染みこませるように…ホカホカの布団のようになって!」
「そんな存在になる…そのことで「彼等」に教えてあげる事が出来る!と」

「…そんな風にね」って言って、彼はまたタバコをくわえた。
ちょっと照れたような笑顔をしながら。

帰り際、厩橋さんは俺に言った。

「…戸沢くん…「悲しみ」を、いつまでも隣に座らせておくもんじゃないぞ」
「君は「本当のパートナー」を探さないと、いけないんじゃないのかな?」

「本当の…パートナー」
不思議と、その「一言」は、俺の中に深く残っていった。

<つづく>

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2008年5月 1日 (木)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」16

<つづき>

厩橋さんとの「出会い」は、「行き詰まりの原因」を俺に教えてくれる事に繋がった。

「悲しみをパートナーに…か?」

…確かにそうだったのかも。
俺は「悲しみから遠ざかろうとして」逆に「悲しみと友達」になっていたのかもしれない。
「悲しみの力を借りて…飛んだり跳ねたり…か?」

「危ねえなぁ…」…考えると「冷や汗」が出る。
下手すれば自殺行為だぞ?と、深く自分に言い聞かせた。


「原因」に近づいたのは良いんだが…俺には「代わり」になるものが、無い。
ひょっとしたら…「臆病風」に吹かれて、綱渡りも出来なくなるかも知れぬ。
…「そんなこんな」を事務所で考えていたら、社長が出張から帰ってきた。

「まー君、どうだった?」
「…良かったっス…いろいろと」
…何々?何が良かったの?と社長が聞くので俺は「かいつまんで」顛末を聞かせた。

「で…社長…正直言って、オレ、少しビビってる感じなんすよ」
「…つまり「思い切り」が無くなったかも?ってことだよね?」
「…ええ」「ま…そう言う時にはさ、まー君?」
「ハイ?」

「仕事…あげるから…一週間もすれば、動くよね?足」
「ハイッ!?」


「現場で考えろ!…それこそプロだ!!」
…そういう風に社長は仰った。

しかし…こっちだって「プロ」のカンバン下げて、今までやってきたんだ。
その話し、受けようじゃないか!。

「場所はねェ…北海道は××町…「町民の集い」ってやつ」
「××町…」

「忘れられない場所」だ。

俺が初めて客の前で「芸」を見せた所。
唯にふられて…無茶苦茶になりながら、埃と涙まみれになって…自分の力で「稼いだ」場所だ。

「…社長」「なあに?」
「俺…やって見せますから…ちゃんと稼いでやりますからね!!」

…俺は両手を握り締めると、ドン!と事務所の床を思いきり踏んだ。
「ジーン」と痛みが、足から頭へと駆け抜けて行き…俺は「×◎△◇!!」と叫ぶと同時に、その場で凍りついた。

<つづく> 

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2008年5月 2日 (金)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」17

<つづき>

「晴天」

…大きな空が、地平線のすぐ上を青く染め抜いている。

「それでは…ピエロの「マーシー」さんの演技を御覧頂きましょう!」

司会の声に、俺は舞台袖から走りこみ、台を駆け上がって「大玉」に乗った。
そのままバランス…よし…そんなに「ふらつき」は無いぞ!。

両手を広げ、胸を張って、北海道の雄大な青空を見渡す。
その下に小さく観客の姿…みんな、俺に注目している。
…再び視線を上に戻し、空の「もっと上」を見詰めた。


「空…今頃「厩橋さん」も病院で格闘しているころかな?」

マッキーの言葉が浮かぶ…「「ここ」で何を感じたか、よ!?」
…そう…「心が何を喋るか?」だ。
俺は自分の「心の声」を聞こうとする。

「…雑念を持っては駄目!…「感じる」それだけに身を任せるのよ!」
ん?…誰の声だったかな?…懐かしい、声…。

「まさたかは…地味だったかもしれないけど「やれば出来る」ヤツだったよな?」
…さすがは北海道だ…「ヒグマ」も喋るんだな?。

…そうか…「お前ら」か?。

不思議なもんだな…「逃げてきた」俺が、一番頼りにしたかった存在(もの)。
それは結局…。


「俺ら「仲間」だったじゃろうが!…何一人でテンパってるんじゃ?」

…雅一郎。

…そうだったよ…なんとなく「頼りたくなくて」…自分がミジメだったのも…それに「どんどん伸びていく」お前らの姿が眩しくって…ムキになっていたんだよ。
だから…「俺一人で」って、やってきたんだ…ここまで。

…唯…それに、ヒロ…。

俺たちの「時間」…懐かしく、切ない、あの時間。

俺は…今一度「さよなら」を告げないといけないらしい。
「そんなにヤワなもんじゃないよ」…昔、俺が言ったように…確かめるために!。

…俺の「時間」を始めるため…それと「みんなの時間」と並んで走っていくためにも!。


…痛めた足が小刻みに震えている。
「怖気」なんかじゃない…「足の感覚」が少し無くなって来ているんだ。
踏み出す「最初の一歩」に、ロープがわずかに弛む。

「…誰も、いない」

…このロープの上にいるのは、俺一人だ。
そう思うと、途端に足がすくむように、身体が固くなる。

「まさたか…「ひとりだけ」じゃ無いだろ?」
「「ひとりひとり」…僕らは「僕らを」生きてきたんだ…そうだろ?」

…そうだったな?「晴ボン」

俺たちは「ひとりで、みんな」だったんだ。
俺も…そのひとりだったってこと、すっかり忘れてたよ。


「さあ、前を向け!!」
…まずはこの「綱」を渡りきることだ!。

…渡りきれたならば、まっすぐに「故郷」に帰る。
そして、しっかりと確かめてくる…あの「時代」ってヤツを!。
そして…そこから、またやり直し、だ。

…そう…「俺はもう「ピエロ」じゃいられない!」んだ!。

<おわり>


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2008年5月 3日 (土)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」おまけ

「「ぴえろ」に非ず!!」


一般的に「道化」というと、この国では「ピエロ」のことを指す、と言われる。
しかしこれは「誤訳」というものであり、実際にサーカスなどで様々な「妙技」を行い、観客を沸かせる存在のことは「クラウン」と呼称するのが正しい。
「ピエロ」は「コメディア・デラルテ」という、イタリアの古い「即興劇」の中の一キャラクターであり、その性格付けも「繊細」ではあるものの、むしろ「神経質」と言うほうが正しく、あのサーカスでの「ピエロ」の色とは明確な違いを見せる。

ジャグリングなど「エンターティナー」としての要素を強く持ち、観客を抱腹させる「役目」を持たされる存在が、いつしか「悲しみの仮面」を被されてしまったのは、いかような事象からだろうか?。
これには「笑い」を供するものの存在には「悲哀」の要素が不可欠である、とする
「日本人独特の価値観」が生み出したものでは無いだろうか?。

「表裏一体」…等価価値の真理「天秤の原則」の呪縛を纏いながら生活している我々には「笑いを供するもの」の中に「悲哀」の一文字を書きこまない限り、その「存在」を承服できない、と言う「プログラミング」が施されているのだろうか?。

昔の「ある映画」の中に登場した「ピエロ」は、その目から「大粒の涙」を流していた。
悲哀の象徴たる「涙の粒」を描く事により、その「内面性」を訴えかけようとする狙いからである。
しかし、その「メイク」を、サーカスの子供達は「一蹴のもとに」否定する。
「お客さんを喜ばせる人が、自分が泣いててどうすんのさ!」
と言うのだ。

「然り!」である。
本来、演者には「涙」は不要なのだ。
自分の歌唱に陶酔し、落涙盛んの歌手のように、その姿は恥ずかしい。
自分の顔に涙を流した「本人」も、初日の上映を「自分の汚物を見るようで嫌だ」と見るのを拒んでいたと言う逸話も残っている。


「クリニクラウン」というものをご存知だろうか?。

詳しくは「こちら」を参照願いたいが「臨床道化師」の別名をもつ「彼等」は、自らの「技術」と「児童心理」などに精通している「スペシャリスト」。
生まれついての重病などで、病院外などで過ごす事が困難な「子供達」の「精神的苦痛」を和らげることを目的としたものであるが、先に述べた「笑いの背反」から作られた「ピエロ」のイメージが邪魔をするのか、社会での「認知度」は低く、充分な啓蒙が成り立っているとは言えない状況だ。

「笑い」と言うものが、病気に対抗する「有用な手段」であることは徐々に認知されつつあるのだが「薬物の投与」とその「考え方」は変わらず、まるで「ダイエット法」のごとく取り扱われているのは遺憾なことと言わざるを得ない。
「クリニクラウン」の存在は、そういった「啓蒙本」とは一線を画すと言う意味で、我々に「笑い」というものの「必需性」と、その「役割」を確として訴えかけているのである。

東京都のとある総合病院で「クリニクラウン」活動を行っている青年と出会う機会があった。

今から十年近く前の話しだが、彼は自らの「体験」を赤裸々に私に話してくれた。
私は彼の話しに痛く感動をし、彼の「話し」をベースとした小説「蒼い窓から」を執筆した。

小説中では主人公の「友人」である子供を「生還」させたが、実際に彼が知り合った子供は、残念ながらその短い生命の火を長く保つ事は出来なかったという。
彼の活動に敬意を払った事と、私なりのせめてもの「供養」として、病院を退院できた子供が「外から病室に呼びかける」という「明るい幕切れ」を選ばせてもらった。
せめてもの「命の記憶」をページ上で保って欲しい、との気持ちからである。

                               留美久 寅三

参考文献
「特定非営利法人 日本クリニクラウン協会」
「噺歌集 著者:さだまさし」

***この「話し」はフィクションですYO-***

<注>
文中に登場する人物は架空のものであり、実在の方との関係性は何らありません。
「るみくす」
                 

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2008年5月 4日 (日)

彼等の行方(すくらっぷ・ブックから)…「ピエロじゃ無いぞ!」あとがき

今回は、本当に苦心した。

というのは「戸沢正賢」というキャラが、「すくらっぷ…」の劇中で「地味な存在」であるがゆえに、妙に「現実的」な色合いを帯びてしまうからで、そのことに「引っ張られて」しまって、話しが「リアル化」し過ぎてしまった故だ。

「おちゃらけ」を入れても、なにか空振りをするようでいただけない。
そんな「いっぱいの齟齬」が嫌で、何度も書き直しをした。

特別な才能も無いくせに「諦めが悪い」性格なので、こうなるのだ。
「それでも、見てくださる方がいらっしゃるのだから」と、途中で投げることはしたくない。
私の「性格」は、なんとなく「まさたか」に似ていると思う。


「クリニクラウン」の話しは、いつぞやのテレビで拝見した。

実際に活動していらっしゃる方の「ドキュメンタリー」で、その「精神」には当時、いたく感動をした覚えがある。
お名前等は失念してしまったが、今でも心に残る「作品」である。

今回まさたかを「ピエロ」にさせよう、と思い立った時点で、この「クリニクラウン」のフイルムが頭に甦った。
「上手くいく恋ばかりじゃないよ」というのは恋愛を「デフォルト」し、際立たせるときには、どうしても必要なものだと思うのだが、それも「リカバリー」という経過が無ければ、ただ「悲惨」に映るだけだ。
その「一連の経過」の「ヒント」として「笑い」というものを「テーゼ」にしたかったのだ。

キャラクターの「おいたち」とか「姓名判断」とかを「叩き台」にすれば、私の「煩悩」はギコギコ言いながら文章を紡ぎ出してくれるのだが、今回はそれが「出来なかった」。

キャラの「性格」と私の「性格」が、何処か「シンクロ」してしまうところがあったゆえに、私の「回路」が、過去の出来事などを勝手に「抽出」してきてしまうのだ。
そう言った意味で言えば、今回の文章は「まさたか」であって「そうではない」とも言えるだろうか。

本来はこういった「私物化」みたいなのは避けなきゃいけないのだろうけれど。
なにぶん「妄想」なので、どうか清くお許しをいただければ、と思う次第。

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2008年6月16日 (月)

おわぁ!?

…いや、ビックリした。

「これ」みなさん知ってますか?。

名前がもう「リアルそのもの」ですね。
しかも動くんですよ!(当たり前か?)。
これを見たときに、一挙に私の(精神)年齢は28年以上リバースしましたよ。

ついに時代が「まさいちろう」に追いついたのです!。
「TAIYO」さん、すごいチャレンジャーだなぁ!。

こうなると、あとはもう「乗用タイプ」の「かまどうま」とかね…。
本革製の「つちころび」の着ぐるみとかね…誰か作らんかなぁ(誰が買うんだ?)。

しかしこの「RC」、チョット買うのはダメだなぁ。
なにせゴキブリ大嫌いだからcoldsweats01

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2008年7月12日 (土)

はたた神

…昨日は結構大きな雷が鳴っていた。
豪雨とまではいかないが、雨もそこそこに激しく降った。
梅雨の末期は、こういう「集中豪雨型の雷雨」が多くなるものらしい。

「はたた神」という言葉を初めて知ったのは「すくらっぷ・ブック」の中での事。
こちら(群馬)では雷のことは文字どおりに「雷」なので、そんな「異名」は聞いた事が無かったのです。

「はたた神」は「霹癧神」と書き、激しい、轟音が鳴り響くような雷の事を言います。
「季語」として、使用されることもあります。
魚の「ハタハタ」(秋田音頭で有名ですが)は、別名を「カミナリウオ」といい、海が荒れるような雷鳴轟く日に良く獲れるそうです。
感じでは「魚偏に神」と書きますが「魚偏に雷」と書く場合もあるそうです。


私の「勝手な解釈」では、こんな感じでした。

「雷の「稲光」というのは「稲妻」であって、稲の豊作を予期させるものであるから「畑田神」なんじゃなかろうか?」
「天羽雷命(あまはいかづちのみこと)は機織(はたおり)の神様だから、そこから来たのかな?」
…などと考えを巡らせて楽しんでいたものです。
しかし「雷が鳴ってバタバタする感じ」もなんだか「はたた…」と絡んで、妙に可笑しかったりします。


しかし、小山田先生はこういった「古語」や、万葉の頃のお話しに詳しいですね。

「氷面鏡(ひもかがみ)」
(カナちゃんが氷に自分の笑顔を映して笑っていたのが、なんとも愛しいですね)
に関しても調べてみたのですが「氷面(ひも)」というのは「紐」の例えとして使われることがあったようです。
「紐」は「帯」の同義語なので、「氷が溶ける」と「紐が解ける」をかませて使用したわけです。
…う・ふ・ふ、色っぽいぜェ(by 桑名正博)。

つまり「あの場面」での「氷面鏡」の使い方っていうのは
「心の中の「固さ」が溶けるということ」「春になるという事」をかけているわけです。
…そうそう「氷面鏡」は「紐鏡」ですから、女性が使う道具、という意味も含んでいるようです。
カナちゃんにとっての「目覚めの始まり(う…)」という意味なんでしょうか?。


今見ても面白いのが「すくらっぷ」…という話でした。

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2008年7月14日 (月)

君が行く…すくらっぷの中の古典

「君が行く道の長手を繰りたたね焼き滅ぼさむ天の火もがも」

「すくらっぷ」中で、理美ちゃんが高専へ進学するイチノの事を想い、開いていた万葉集の頁の歌です。

これを語訳すると
「あなたが行ってしまう道程を繰り畳んで焼いてしまいたい…こんなにも、あなたを想っている私なのに」

…というようなものになるようです。

実際、すくらっぷの中でも、そのような解釈に基づいてストーリーが構成されていました。


では、実際にこの歌が詠まれた「背景」というのは、どのようなものだったのでしょうか?。

この歌は
「狭野茅上娘子(さののちがみおとめ)」という女性が、自分の夫に向け書いたものです。
こちらに詳しいのですが、この歌は夫(重婚の疑いがあるので内縁の妻)である「中臣宅守(なかとみのやかもり)」が、何らかの罰により「流刑」となる直前に交わした歌の中のひとつです。
そういった「状況」から察するに、実は「ロマンチック」な背景色は薄く、ずっと「切実な」状況下での歌だったのですね。


他にもいろいろな歌を交わした様ですが、この「茅上娘子」さんの歌で、私がビックリしたのはこれでした。

「人の植うる田は植ゑまさず今更に国別れして我はいかにせむ」

…なんと直裁な「ラブコール」なんでしょうか!?。
ここで言う「田」というのは、言うまでも無く「私の身体」という意味です。
「田植え」というのは、即ちSEXですね。
「ああん、もう我慢できないわぁ!」とか言わないで、歌に心を託す事でむしろ燃えあがる心。
遠くにいるダンナも、これを聞いて「ああ、逢いたい!」とか思いながら、モゾモゾし続けていたんでしょうね。


「すくらっぷ」を初めて見たとき、一番ショックだったのは
「おおらかな恋愛模様」の描写でした。

「恋愛」という行為そのものが、恐ろしく遠く思えていたのが、私の中学校生活でした。
手を握り合うなんて、なんと破廉恥な!、とか、男女生徒が並んで歩いて下校するだけでも、大変な話題の種となった頃のことです。
それなのに!…「え!雨中でのキスぅ!?中学生がぁ!?」…それはそれは「カルチャーショック」だったわけです。

しかし「すくらっぷ」のなかでの「恋愛の取り扱い方」は、今思えば「とても大らか」だったと思います。
「ありそうな、なさそうな」ということもありますが、そればかりでなく

「全てを白日のもとに」「隠し立てせず、真っ直ぐに」

という「基本概念」があったからこそ、変に強く意識せずに、青少年の「青い心」の中に広がっていったのだと思います。


万葉の歌も、同じようなところがあります。
例えば「性欲」であるにせよ、直裁ではなくても、堂々と「歌」として発表してしまうところは、万葉人の人としての大きさ故なのでしょうか?。

「異性との付き合い方がわからない」
「どうやって知り合えば良いか知らない」
…ネットの巷で、こんな風に悩み苦しんでいる「若者」を多く見かけるようになりました。

「ありのまま・身のまま・心のまま」で良いのだよ?と助言してみるのですが、思わしい返答は得られません。
「情報」ばかりが氾濫して、実際問題としての「恋愛」に下手糞な若者達。
…わたしはそんなとき「この本を見ろ!」と「すくらっぷ」を差し出してあげたいのですが…。

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2008年7月17日 (木)

「ひたひた」は存在するか?

「すくらっぷ・ブック」中でノーミンが背中を見せながら呟いた怪しい言葉…「ひたひた」。
どうやら妖怪の類の名前らしいが、なんとなくパッとしないネーミングだ。
「油すまし」とか「土ころび」とか、名前の中に固有名詞が出てこなくて「ヒタヒタ」という「音」の表現がみられるだけだ。
なんというか「妖怪」らしくない。

ノーミンの爺さんが言っていた、という昔話では「碓氷峠で」と特定の場所指定が有るので、それをキーにして調べてみる。
すると幾つか該当しそうな記述があった。

「怪異・妖怪伝承データベース」の中に「ムジナ」の記述がある。
「ムジナ(狢)」は、タヌキ、キツネとともに「人を化かすもの」として昔話に出てくる動物の一種だ。
元称は「アナグマ」で、タヌキと混同されやすいが別種の生き物だ。

碓氷峠は現在、旧道と「バイパス」と言われる新道が走っている。
「旧道」は、言葉どおりの「九十九折り(つづらおり)」で、小さなカーブが続く山道だ。
舗装され、コースは違ってはいるが、今でも「中仙道」の面影を残す「深山の道」といった場所だ。

この「旧道」を夜中に好き好んで走っているのは「ドリフト族」くらいなもので、ほとんどの人は明るいバイパスの道を選択する。
実際に深夜の旧道を走っていると、妖怪が「ぼぉ~」っと現れてきてもおかしくないような雰囲気で、車でもかなり恐い。
ましてや「徒歩での峠越え」なんて、考えただけでも嫌だ。


「ひたひた」というのは「音訳」だろう。
夜中の峠道を歩けば、動物の足音一つだって聞こえるくらいに静かな晩も有る。

どうやら「ひたひた」は、碓氷峠に伝わる昔話(ムジナ)と、姿無く忍び寄る夜闇の存在が生む「恐怖」が、合体して出来たお話しのようだ。
すくらっぷ中に出てくる話しで、詳細なものは見つからなかったので、これは先生の「創作」なのかな?と想像するけれど…。


「魑魅魍魎」「跳梁跋扈」
平成の現在のほうが余程こういった言葉を使うに相応しい「やつら」が多い。

夜中にそっ、と現れて、そしてふっ、と消えていく。
「立ち振る舞い」もスマートで、ユーモアがあって…妖怪のほうがずっと「クール」」だ。
ガチャガチャと世の中を騒がせながら現れ、何処かの場所で朽ちて行く…人々の記憶から忘れられながら。
そんな「生き方」を選択するのは、いつだって「人間」のほうだ!。

「油すまし」や「土ころび」に化けたい時だって…あるよね?。

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2008年7月20日 (日)

故郷を離るる歌

「故郷を離るる歌」…教科書や、テキストなどに記載されていたことから、ご存知の方も多いと思います。
「すくらっぷ・ブック」中では、理美ちゃんがイチノたちを送る為、オカリナで演奏していました。

あらためて、原詩と日本語詩とメロディを記載されている素敵なサイトがありますので、ここでご紹介したいと思います。
「二木紘三のうた物語 故郷を離るる歌」

往々にして「原詩」と「日本語詩」に「異訳」がある場合が多いのが、こういった「唱歌」の類なのですが、この歌も例に漏れず、その「雰囲気」は異なっています。
日本語詩は名前の通り「故郷からの別れを惜しむ」詩となっていますが、原曲はもっと大らかなものになっているようです。
「♪おらこんな村いやだぁ~」みたいな感じでしょうか?。

こういった「独自の詩」がつけられるようになった背景には、当時の「世情」があります。

この歌詞が出来たのは大正二年の事。
幕末・新政府樹立の時代を超え、日本海海戦でロシアの「バルチック艦隊」に当時の「帝国海軍」が勝利し、「富国強兵」を強力に邁進させていた頃です。

写真でも映画でも、もちろん歌でもそうですが「プロパガンダ」としての役割を「表現の媒体」たるものも持たされるのは、あまり珍しい事ではありません。
「唱歌」の成り立ちにも、そういった「過去」が潜んでいます。


「故郷」とかいて「くに」と読む事が有ります。
もともと「ある目的を一にする人の集合体と、その区域」を「くに」と読んでいたわけですから、「故郷」というのも「くに」と言っても良さそうです。

しかしその「お国意識」を「有効に使おう」と考えた方がいらっしゃるらしい。
「故郷への愛着」と「国への愛着」を巧妙にすりかえる事で「愛国心」を向上させる、という企みをした人がいるわけですね。
歌…特に「歌謡」は、子供を主役として広まっていきやすいものです。
「唱歌」も、まさしくそこを狙って作られた、いわば「洗脳作業」の道具のようなものかもしれない。
しかし、平成の今もって尚、唱歌を愛する人がいるという事は「そればかりのものでもなかろう」ということの証左でも有ると思うのです。


…何はともあれ。
理美ちゃんがイチノを送るときに心を託したのが「この曲」だったことに異議が有るわけでも無し。
故郷と、故郷に居る「女(ひと)」を恋しがるのは万国共通です。

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2008年7月22日 (火)

油すましVS土ころび

ご存知の方もいらっしゃるかもしれない。
「油すましの墓」が見つかったのだという。
私は最近になるまで知りませんでしたcoldsweats01
詳細はこちら

地元の人が「油すましどん」と呼ぶこの墓、どうやら昔の「油つくりの名人」さんの墓らしい。
この地方の方言で「搾る」ということを「すめる」というらしく、それが「油すめし」転じて「油すまし」になったという説があるそうだ。

何にせよ「油すまし」は「油のプロフェッショナル」だったのだ。
「酸いも甘いもかみ分けた」プロフェッショナル。
晴ボンが「変身した時の姿」として、まさしくふさわしい。
たくさんの人に「頼られる存在」だった、というのも、なんとも合っていて可笑しい。


「土ころび」も調べてみると意外な事実に突き当たった。
なんと「蛇の仲間」であるという。
ころころと斜面を転がってきては、鋭い牙で噛み付く。
時には「ジャンプ」して、人を襲うこともあるという。
その姿や行動から「バチヘビ」「ツチノコ」と同類(?)なのでは、という説もある。

なんとも、迷惑なやつだ。

「油すまし」が「人格者」の一面を持っているのに、この「土ころび」は「害獣扱い」である。
…彼(?)だって、必死に生きているのに!。
これでは性格が曲がりかけになって、ヤケクソ気分で悪戯ばーっかりしてても仕方が無いだろう。

しかし、困った。
これでは「異種格闘技戦」で、試合が成立しそうにも無い。


…しかし…まぁ「喫茶店のマスター」が妖怪「あずきあらい」に変異しそうになったり、胸に「ルート記号」を掲げた「ぬりかべ」になるサッカー少年や、「農作業仕様のズゴック(あ、これは違うか)」がゲタスケート履いて氷上を滑っていくような世界だから、きっと「常識」は通用しないんだよね?。

「彼ら」は、ひょっとしたら「われわれが見ていない世界」では、「第二の自分」に化身しているのかもしれない。
だって彼らは「妖精」なんだもの。

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2008年7月24日 (木)

虎落笛が聞きたい…

随分と前の話ですが、朝早い列車に揺られて小諸を訪ねたことがあります。
駅から降りてまっすぐ「懐古園」を目指しましたが、早朝の時間帯であることもあって、園内は私一人くらいでした。
千曲川を見下ろせる展望台に進むと、背後に浅間山の姿が白く輝いて、そこから降りてくる「寒風」の冷たさといったら、我が群馬県の「空っ風」にも比肩しうるような「頬が切れそうな」ものでした。
私はそこで「虎落笛(もがりぶえ)鳴く…」と、一人呟きます。

「虎落笛」の由来はこちらに詳しいので、どうかご参照下さい。

俳句の冬の季語としても使用される「虎落笛」は、何処か寂しい感じです。
だから「時間帯」も、早朝などではなく「夕方」や夜闇の中に吹き渡る音と言うほうが相応しいのでしょう。

「すくらっぷ・ブック」の中では、ノーミンが芦を刈り「よしず」を作っていました。
「よしず」というと「葦簾」と書き、葦を並べて、それを糸で結んだ「のれん」みたいなものを一般的には指すのですが、ここで出てくる「よしず」は、柵木を設け、その横板に束ねた「葦」を差し込んで作る「防風壁」のようなものと考えられます。

その「よしず」の中を、信濃の北風が鋭く通り抜けていくとき、笛の音は鳴るのでしょうか。
「島崎藤村」が懐古園での印象をモデルにしたとされる「千曲川旅情の歌」には

「暮れ行けば浅間も見えず 歌哀し佐久の草笛」
…とあります。

草笛も虎落笛も同じく、空気の流れが物体を通過するときに発生する「振動」が音の「素」になっているわけですが、小諸の街には「そこかしこ」に「空気の流れ」を感じるなぁ、と思います。
北に「浅間山」が聳え、南には千曲の流れがある。
山から川に向かって風が流れていく…その「中間」に位置している街には、いつも風が流れているような気がしているのです。

風は「流れつづける」から風なのです。

「すくらっぷ」を読んでいた頃、私の中にも確かに「風」は吹いていました。

私は「風」が好きです。
また真冬の小諸を訪ねられたらなぁ、と昔を思い出しながらの盛夏の午後なんです。

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2008年7月26日 (土)

マンガとカメラ

漫画家でカメラの描写をキチンとする人を、私はあまり知りません。

私が知っている中では

・新谷かおる先生
(シリーズ1/1000・エリア88など)
・中山蛙先生
・望月あきら先生
(ズーム・アップ)

…などの諸先生方がおられますが、ほとんどの漫画家さんはカメラが「精密機械」ゆえでしょうか、キチンと描くのを面倒くさがります。
面倒くさがるだけならまだしも、誤った使用方法をへーきで書いておいて「どうだー!」と主人公に言わせるにいたっては…ま、誰とは言いませんが…。

小山田先生は、比較的「カメラ」をきちん、と描かれる方だと思います。

「ウッド・ノート」では、オリンパスの「OM10・OM30」やニコンの「FE2(だと思う…大潟新人くんが使っていたのは)」が描かれていました。
「すくらっぷ・ブック」で、晴ボンがマッキーに壊されたのは、多分「ミノルタX7」だと思いますし(そーいえば、マッキーが「宮崎美子」のポスターで、雅一郎を釣ろうとしていたこともありました)
海に出かけたときに光代ちゃんが「クソつかんだ」大江くんを撮る「ふり」をしてたのは、フジの「HD-M」でしたね。
うろおぼえですが、イチノが理美ちゃんを隠し撮りしようとしたのは80-200ズーム付の「OM10」のような気がしました。

「すくらっぷ」の時代には、小諸に居住する関係からアシスタントさんに不便し、背景画もほとんどご自分で描かれていたようです。
1週間という短い時間の中で、キャラを描き、背景を描き…しながらも、それでもなお「小物」にさえ手を抜かない。
小山田先生の「人柄」が、なんとなく偲ばれるような気がします。


桜井光代…「みっちゃん」には、実際にモデルになった方がおられたという話はご存知の方も多いと思います。
また、小諸駅からほどない場所には「桜井写真商会」さんの店舗があります。
私自身、一度も入店したことが無いのですが、今度小諸に行くときは「手ぶら」で行って、トイカメラを買って懐古園でも撮影しようかな?。

しかし今回HPをググって見て驚いたのは、桜井光代さんご本人のお名前が記載されていたこと!。
そして「フォトグラファー」として活躍されているとのこと!。
正直、驚きました!。

リアルはリアル、フィクションはフィクション、と理解はできていますから、覚めた態度で「へ~?」とか言っても良いのですが、なんというか「ふいうち」だったので、正直驚いています。
…そうなんですねぇ…面白いもんです、生きているのもこんなことがあるんだから。

最後のほうは乱文で読みづらかったと思いますが、ご容赦を!。

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2008年12月19日 (金)

夕暮れ少女(Ⅰ)

…俺がここに帰ってきたのは、ただの「偶然」に過ぎないんだ。
「生まれ故郷」ってわけでもないし…いろいろあった土地だけどね。

…友達?…そうだな、多分元気なはずだよ?。
薄情ね、って?…そうかもしれないけど、俺にはあまり仲が良い友達って、少なかったんだよ。
隣の家のサブ…喜三郎、略してサブ…アイツとよく遊んだくらいだけど…もう、アイツの家、無いんだよ。
借家住まいだったからさ…俺もアイツも。
去年久しぶりに年賀状が届いたっけ。

あのころ…小学校の5年生だったかな?。
俺はこの街に二つある小学校の…どちらかというと「街中」にある学校に通ってた。
…ほら、もうひとつの学校があの国道より少し上った場所…そうそう、あのコンクリートのやつだな…あそこなんだ。
俺の学校はもっとずっと線路寄り…市街地が近くて、時折遊びに行ったけど、運動場がせまくて…めいっぱい「石蹴り」が出来なかったな。
いろいろ…思い出すよな。


…まだ4時前か?。
あっという間に太陽が落っこちていきやがる。
帰る?…そう、まだ居たいのか…それなら夕暮れまで粘ろうか…。
ここから見る夕焼けは、天下一品だぜ!。

…夕暮れ…夕暮れって言やあ「あの子」どうしたかな?。
…うん?…いや、そうだよ?「女の子」…だって小学生のころの話だぜ!?妬くようなもんじゃないだろ?。
うん…あれは俺が、この街を引っ越す前日のこと…あの「上のほうの学校」のそばで見た、女の子なんだ。


実は俺、あの「上のほうの学校」に通いたかったんだよ。
缶蹴りや石蹴りが存分に出来た…それもあるけど、近所の友達はみんな「あっち」の学区だったんだ。
…で、離れ離れ…それが友達が少ない理由なんだけど、だから「仲間はずれ」みたいで悔しかったんだ。
親父に駄々こねてみたこともあるけど「うるさい!」で終わりだったな。

親父はさ…土方みたいな仕事しててさ…いろんな場所を渡り歩いてたんだ。
俺がこの土地に居たのは、5年間くらい…その間におふくろが急に死んだり、弟は小さいしで…正直大変なことが多かったよ。
だから余計、みんなと同じ学校には行きたかったんだがね。


三学期が終わって、あわただしく「次の場所」に向かう準備をしてたんだけど
「荷紐が切れた…店行って買って来い」って、親父に五百円札を渡されて買い物に行かされたんだ。
俺は頷いて、歩いてほんの5分くらいのところにある雑貨屋に向かったんだ。

荷紐を買い終わって西の空を見ると…とんでもなく赤い夕焼けの空が目に飛び込んできた。
きれいだな…と、しばらく魅入っていると…俺のほんの少し前に、一人の「女の子」が、俺と同じように夕焼けを見て居たんだよ。
その彼女の横顔が…なんとも言えなく寂しそうだったんで、俺は夕焼けじゃなくて今度は彼女に「釘付け」になっちまったんだ。

歳は俺とあまり変わりそうも無いけど、見たことが無い子だった。
…可愛かった?…そうだなぁ、確かに可愛かったよ。
ただ…髪型、そう「前髪」の格好が変わっていてさ、片方の目の長さまで長く髪が垂れていたんだよ。
それも印象的だった理由のひとつだった。


彼女は…俺のほうをフッ、と見ると街の中へ向かって歩いてった。
笑いもせず…一瞥すると、歩いていったんだ。
俺は…自分の心臓がどうしてこんなにもドキドキするのか理解できなかった。
…たぶん、あれが俺の「初恋」だったんだな…。

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2008年12月20日 (土)

夕暮れ少女(Ⅱ)

…一通り荷造りも済んで、いよいよ明日は引越し先へ、と言う日。
…わかんないかもしれないけど、俺の家みたいに「引越しは年中」という家は、前日になってバタバタしないように家財道具も最小限だし、手際もすごく良いんだ。
だから、前の日になると「何もすることが無い」。
学校も休みだし、サブは旅行に行っていないから、サヨナラはもう済ませといたし。

親父と家にいたら気が詰まって仕方無いからさ、俺は自転車に乗って出かけたんだ。
…あてなんか、何も無い。
ただなんとなく「この街にサヨナラ」がしたかった…とかいうと、気障かな?。
…え?「あの子を探しに出かけた?」…痛いところを突かれたなぁ…それは自分でもわかってたんだ。
何せ、家にいても体がウズウズして…落ち着かなかったからな。


自転車に乗って探し回って、それで見つかるわけは無い…そんなことはわかっていたよ。
「走る」ってことで、この「モヤモヤ」を解消させたかったんだ、と思う。
まず駅に向かって…それから城址公園に…そのままずっと上っていって「上の学校」まで漕いだ。
そのころには体中汗だくで…息が切れて、少し苦しくて…。
…いつの間にか日は傾いていて、また綺麗な夕焼けが西空に見えてたよ。

俺は自転車から降りて、歩いた。
なんとなく「まだ帰りたくない」って思ってた。
下り坂をトボトボと、国道との交差点に向かって歩いていたんだ。


消防署の赤灯が見えた。
俺は思わず立ち止まった。
「あの交差点を超えたら」
俺の5年間の…思い出がみんな消える…なぜかそんな気がしたから。

最初の一歩が踏み出せなかった。
夕闇に飲み込まれるように、下の街のほうが暗くて…。
「あそこ」に戻れば…思い出も何も無くなった俺が「ただいま」って言って、玄関の戸を閉めて夕食を食いだすのだろう…そんなふうに思ったんだ。
そのときの夕焼けは綺麗ではあったけど…血の色のように恐ろしく感じた。


「…そんなことあるもんか!…何を考えている?俺!!」
俺は自分の「妄想」に蹴りをつけるためにキッ、と顔を上げて、再び自転車を押し出した。
…何も変わりない!…俺は俺だ!…どんな場所でも、俺は俺だ!!。
俺は消防署の「赤灯」をジッ、と睨みつけながら、歩き出した。


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2008年12月21日 (日)

夕暮れ少女(Ⅲ)

…ずんずん…ずんずんと突き進んでいく。
ただひたすらに赤灯を睨めつけ、俺は坂を下っていった。
他のものは一切見ないで、ただひたすらに。

いつの間にか俺の視野に、黒く「影」が入ってきた。
その「影」は、どんどんと大きくなっていった。
「それ」はやがて「人の姿」となり、俺の前にハッキリと現れた。
ずっと睨めつけていた赤灯から目を外すと…俺のすぐ前には、一人の「女の子」の姿があった。
…しかし、顔はよく見えない。
暗がりになっていたのと、照明ばかり見てきたので、目が「焼けて」しまったから。

「…危ないよ?」
「…え?」
「遠くばかり見て、すぐ前を見てないから」
「…」

俺は言葉を失いながら、彼女の言葉を聞いた。

「あ…悪…い…悪かった、よ」
「どうしたの?」
「…なんでも、ない…」
俺は自分の目が早く元に戻るのを願った。
彼女の顔はまだ照明の残像の中だった。
…俺はしきりに目をしばたたせながら、彼女と話した。
それを見た彼女はクスッと笑いながら、横を向くと、
「明日も…きっと晴れだよね!」と言った。


…それから何があった、って?。

いや…それから彼女は、まっすぐ坂を上がっていったよ。
一度も俺を振り返ることもせず、ただ、まっすぐにね。
…でも…俺は彼女とすれ違う刹那、彼女を見たんだよ。
彼女の横顔と…そして彼女の長く垂れた前髪をね。
…彼女の背中に…本当に最後の残照の光があたって…夕暮れの光の中に溶けていくみたいだった。
妖精みたいだった…キレイな…キレイな「光景」だったよ。

俺はそのまま彼女が闇に消えるまで見送った。
そして自転車に乗ると、すっかり暗くなった街のほうへと下っていったんだ。
不思議なことに、もう「暗闇」は恐くも何とも無かった。


…これで昔話は終わりだよ。
さて…もう帰ろうか?。

え?…彼女に再会(あ)いたくないか、って?。
…いや、それはもう、良いんだ。
もしも…今の彼女に会えたとしても、もう彼女は昔の彼女じゃないし…俺も、変わったんだし。
何より、俺には「おまえ」がそばにいてくれるからね。

明日からいよいよ「ここ」で仕事始めだ!…頑張るぞ-…おまえと、俺と…「新しい生命」のために!。
現場は、ここを少し下がった場所で…歯医者が建つんだそうだけど…。

(おわり)


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2009年7月14日 (火)

個人通達的小諸案内(すくらっぷファン限定版)

すくらっぷファンの皆様…特に明日に小諸へ初めて旅立たれる方(笑)のための「小諸案内」です。
ただし、個人的なものですので「つまらんかった」と言われても私は知らないです(汗)。

1、懐古園
言わずもがな。すくらっぷファンの「聖地」です。
小諸駅前から陸橋(でいいのかな?)でダイレクトに懐古園前まで行けます。
「有料」です!。
これにビックリされる方が意外と多いと思います。
「え!ただじゃないの?」…晴ボンたちがひょいひょい入園してる雰囲気があるので、意外と思います。
大人個人500円です。
ただし「散策券」というものもありまして、こちらは300円。
園内の施設(動物園除く)に入らないならば、こちらがお得。
時間重視ならば、散策券だけでもいいと思います。
(AM8:30前ならば無料なはず…未確認)
城門を入り、入場ゲートを抜けると右側に上っていくと、例の「ばかもの~展望台」があります。
階段の手前には「ばけもの~」と声がしたという「石碑」があります。
展望台の手前が、みんなで「手つなぎ鬼」をした「馬場」です。
展望台を降りて右手に道を進みますと、小さな「茶屋」があります。
鬼ごっこの後一休みをしていた茶屋です。
そこで左折しますと動物園に入り、ふたたびゲートに戻ります。
これが外周ルートです。
詳しく見るときは石垣の上などにも登ることが出来ます。
園内には神社も奉られています。

2、芦(ノ)原中学
懐古園前の道に出て左折し、ひたすら歩くと道がいきなり広いバイパス状になります。
コンビニを越えて右側に学校が見えてきますが、それが芦原中学校です。
この辺りの雰囲気は、当時とは全く変わっていて、面影はありません。
ただ「梅林」の道があった名残として、梅ノ木が道の両側に植わっています。
みな、過去に生徒たちが育てた木です。
道の正面方向に天気がよければ「雪のエアポート」が見えます。

3、坂の上小学校
作品内の学校は、実際の芦原中学と雰囲気が違います。
特に正木先生が受験後の3-7の生徒を待っている場所は明らかに実際と異なります。
これはどうも「坂の上小学校」近辺を使っていると思われます。

4、北国街道 ほんまち町屋館
作品とは無関係ですが、店の奥に入りぬけると中庭に出ます。
そこから見る浅間山は「街が山の麓にあるんだ」と実感できる眺めです。

5、高峰高原
今回の限定版でも使われていました。
ここは車かバスで無いと行けません。
浅間山が間近に見えます…天気さえ良ければ小諸の街が遠望できます…が、他には何もありません。

6、桜井写真商会
「桜井光代」のモデルは、同名のご本人です。
作品と酷似している外観はそのままです。

7、小諸すみれ号
いわゆる「コミュターバス」です。
先生の描いたキャラクターが使われています。
http://www.city.komoro.nagano.jp/www/contents/1221004897329/index.html

8、小諸駅前観光案内所
「飛天魔軍」さんの作成されたハガキ
http://www3.wind.ne.jp/mononoke/oyamada/
が置かれています。
桜井写真商会さんにもあります。

えー、こんなところでしょうか?。
季節によっては、他にもあるのですが。
今の季節で言うとこんなところです。

では、良い旅を。


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2009年10月24日 (土)

おお、懐かしや!

…こういうとなんだが「すくらっぷ」に関しては近県であるという利もあり、小諸行きの数はファンの中でも「かなり上位のほう」であるんじゃないか?と自負してきた。
…ま、だからどうだ、といわれると「なんでもない」んだけどさ(^-^;。

「足繁く通ってる」という意味では、驕りというか「オレは知ってるぞ!」的なところもあったのは事実。
何にせよ「情熱」という意味では相当なもんだぞ、と思ってた。

しかし昨日このサイトに出会って、すっかり脱帽してしまった!。
「実録 小山田いくの世界」
ここの管理人さんの情熱は凄かった。
S61年から62年にかけて撮影された「モノクローム」の映像は、その場所の多岐に渡ること、そして
「すくらっぷの舞台を探し出している」その行動力は、私など足元にも及ばないくらいに情熱的だったといえる。
そして、その映像(写真)が「すくらっぷ」の登場から日々をあまり経過していないということで、当時の雰囲気を今に残していることにも、大変価値があるものと思われるのだ。


実は…小諸はかなり「劇的変化」を、この20余年の間に経験してきた街と言えるだろう。
日本全体の変化…バブル期の到来や、その後の崩壊など…そして「地域的な変化」と言っても良いような出来事が繰り返し訪れてきて、大きな波を被り続けてきたようなところがあると思うのだ。
景気の変化は、大型小売店舗の進出と挫折を。
長野での冬季オリンピックは、新幹線の誘致と、停車駅の計画の挫折…それに高速道路の整備の進捗を。
また在来線では「国鉄からJR、そして私鉄化へ」と移行があり、碓氷峠を列車が走らなくなったことで、小諸の産業の一端でもある「観光」は大きな打撃を受けた。

私が通い始めたS57年頃には、まだ街中は活況の極みであり、駅前には大きな音楽が流れ、人通りは激しかった。
点在する古い街並みの中に、新しい硝子張りのビルディングが建って、色鮮やかなネオンが輝いていた。
懐古園の駐車場は大きく拡張され、大型バスが満杯に停まっていて、駐車場の移動を余儀なくされたこともあった。
…現在の小諸には、そのような情景は無い。
寂れた雰囲気が街中を包み、人通りは少なくなった。


「実録 小山田いくの世界」の中には、あの当時の小諸が残ってる。
大改装される前の駅舎、芦原(芦ノ原)中学校周辺の風景…マンガの中で垣間見た風景が、モノクロームの写真の中で眠っている。
バブルの盛衰の中で変わっていってしまった風景が残り、私に呼びかける。
「…よお、元気か?…俺たちのことを覚えてるか?」
もう二度と見ることができない光景が、語りかけてくるかのように展開されている。
懐かしさで胸がいっぱいになる…そして「何でもっとたくさん写真を残さなかったんだ?」と後悔の念も巻き起こってくる。
思い出たちは二度とは実際にはめぐり合うことはない。
しかし写真はその当時の雰囲気を閉じ込める「タイムカプセル」となってくれるのだ。


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